鉄系超伝導体: 高温超伝導の起源を絞り込む

2020年01月27日

類似の系での測定によって、単層セレン化鉄の高温超伝導の起源に関する有力説を除外することができた

佐藤宇史教授のチームは、分子線エピタキシー法を用いて単層テルル化鉄(FeTe)上に硫黄分子を照射した(左図)後、トポタクティック反応で単層中のテルル原子を硫黄原子に置き換えることによって、単層硫化鉄(FeS)の作製に初めて成功した(右図)。

PNAS © 2019より許可を得て参考文献1から転載。

セレン化鉄(FeSe)の単原子層をチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板上に形成すると高温超伝導が起こるのは、予想に反して、電子とフォノンの結合だけでは説明できないことが、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の実験家によって示された1。これによって、材料科学者たちはFeSe系の高温超伝導の起源について再評価を迫られることになるだろう。

SrTiO3上に単層FeSeを形成した系は、2012年に65ケルビン(K)という極めて高い転移温度を示すことが明らかになり、大きな話題となった。この転移温度は、鉄系超伝導体の中で最も高い。

また、ほとんどすべての高温超伝導体が単層膜になると高温超伝導体でなくなるのに対し、FeSeは、バルクの転移温度は8Kだが単原子層になると65Kまで上昇する点で特異である。

SrTiO3上の単層FeSeにおける超伝導の起源については盛んに議論されており、単層中の電子と基板中のフォノン(結晶中の格子振動)の結合によって超伝導が発現するという説明が有力になっている。

今回、AIMRの佐藤宇史教授と東北大学理学研究科の中山耕輔助教らは、FeSeとよく似た超伝導特性をもつ硫化鉄(FeS)の系で測定を行うことで、この説を除外できることを実証した。SrTiO3上にFeSの単原子膜を成長させたところ、単層FeSeと同じ結晶構造をとり、同様に強い電子–フォノン結合を示すにもかかわらず、単層FeS系では高温超伝導が起こらないことが明らかになったのだ。

この発見はチームにとって驚きだった。佐藤教授は、「FeSeの高温超伝導には電子–フォノン結合が不可欠だと考えていたので、単層FeSの電子–フォノン結合を観測したときは、新しい高温超伝導体を作製できたとほぼ確信していました」と振り返る。今回の測定では電子–フォノン結合が高温超伝導の唯一の起源ではないことが示されたが、この結合が高温超伝導に寄与している可能性は否定できないという。

また、FeSの単原子層はこれまで作製が困難とされてきたが、研究チームは新たな方法を開発することで、今回初めて単層FeSの作製に成功した。研究チームはまず、SrTiO3基板上に単層テルル化鉄(FeTe)を形成し、そこに硫黄分子を照射して反応させることによって、効果的にテルル原子を硫黄原子に置き換えた(図参照)。この方法は、遷移金属ダイカルコゲナイドやトポロジカル系などの新規機能性材料の作製にも利用できると期待される。

研究チームは、単層FeSe内の電子同士の強い相関が高温超伝導の起源ではないかと推測しており、現在、これを検証するための実験を進めている。

References

  1. Shigekawa, K., Nakayama, K., Kuno, M., Phan, G. N., Owada, K., Sugawara, K., Takahashi, T. & Sato, T. Dichotomy of superconductivity between monolayer FeS and FeSe. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 116, 24470–24474 (2019). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。