磁性材料: 形を変えられる液体の永久磁石

2019年10月28日

ナノ粒子を含んだ液滴で磁化を保持させることに成功した

永久磁石となった3個の液滴に回転磁場を印加すると、これらを一斉に回転させることができた。橙色の色素は、液滴の回転によって生じた旋回流体流を示している。

参考文献1より。AAASより許可を得て転載。

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)が率いる国際研究チームによって、液体の永久磁石が初めて開発された1。将来的には、液体ロボットシステムのアクチュエーターなど、さまざまな用途に使えるようになると期待される。

磁場中に置くと磁石になる液体は1960年代から知られていて、当時はNASAの科学者たちによってロケット燃料としての利用可能性が検討されていた。しかし、こうした液体は磁場をオフにした途端、磁性粒子の熱運動のせいで急速に磁化を失ってしまう。そのため、永久磁石はこれまで固体でしか知られていなかった。

今回、AIMRのThomas Russell教授は、米国と中国の共同研究者と共に、固体の永久磁石に似た振る舞いをしながら液体の性質を保持する液滴を作製することに成功した。

研究チームはまず、改造した3Dプリンターを用いて、界面活性剤を含んだ油の中に酸化鉄ナノ粒子を含んだミリメートルサイズの水滴を注入し、分散させた。すると、水滴中のナノ粒子が油との界面付近に集合して、殻のような構造を形成した。これに磁場を印加するとナノ粒子は磁化し、驚いたことに、磁場をオフにした後も液滴の磁化の一部は保持されていた。

研究チームは、この液体の永久磁石をさまざまな方法で実証した。例えば、回転磁場を印加することで、数個の液体磁石を一斉に回転させることができた(図参照)。また、球状の液滴を細いチューブ内に吸引して円柱状にし、液滴の形が変わっても磁化を維持できることを示した。こうした液滴の磁化は、1個の液滴を数百もの微小な液滴に分割しても維持され、結果として多数の永久磁石が形成された。

液体の永久磁石は科学的に興味深いだけでなく、種々の面白い応用が考えられる。「従来の固体磁石は現代工業の発展に大きく貢献してきました」とRussell教授は言う。「では、磁石が液体のように変形でき、流動性をもち、再構成できるとしたらどうでしょう?空間的な制約に合わせて形を変えられる磁石があったら?今回我々が発見した再構成可能な強磁性液滴は、今後の磁性材料開発に向けてのマイルストーンとなります。この驚異的な液体磁性材料は、生物学、物理学、化学の分野で注目を集めることになるでしょう」。

この液体が磁化を保持するしくみはまだ明らかになっていないため、その機構を解明することが大きな優先課題となる。「ナノ粒子が集合して殻を形成する際に、粒子間でどのような相互作用が起きているのか、詳細はまだわかっていません。双極子カップリングにしては粒子間の長さスケールが大きすぎるのです」とRussell教授は説明する。「今は、この強い相互作用の正確な起源を調べているところです」。

References

  1. Liu, X., Kent, N., Ceballos, A., Streubel, R., Jiang, Y., Chai, Y., Kim, P. Y., Forth, J., Hellman, F., Shi, S. et al. Reconfigurable ferromagnetic liquid droplets. Science 365, 264−267 (2019). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。