スピントロニクス: 磁気トンネル接合はフェリ磁性体の時代へ

2019年03月25日

ナノメートルスケールの薄さのマンガン層を用いて、磁気抵抗メモリへの応用が期待できる新しい磁気トンネル接合素子が開発された

磁気トンネル接合断面の走査透過型顕微鏡像(A)とその高角環状暗視野像 (B)。
磁気トンネル接合断面の走査透過型顕微鏡像(A)とその高角環状暗視野像 (B)。

許可を得て参考文献1より転載。Copyright (2019) American Chemical Society.

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって、消費電力が低く、超高速動作・大容量磁気抵抗メモリの実現につながる新しい磁気トンネル接合が開発された1

磁気トンネル接合素子は、非磁性絶縁体層が二つの磁性体層に挟み込まれた構造をもつ。通常は、接合を流れる電流によって二つの磁性体層の相対磁化のスイッチングを行うことで、情報の記憶や消去を行う。

より速く、より効率的に磁化のスイッチングを行うには、磁気異方性(印加磁場の方向によって磁化の向きやすさが違う性質)を変化させればよい。磁気異方性は電圧によって制御するのが理想だが、効率的な磁気異方性の電圧制御が可能な材料を見つけることは困難だった。

これまでの研究では、コバルト鉄ホウ素(CoFeB)強磁性体を用いた磁気トンネル接合に重点が置かれていた。しかし、従来の強磁性材料は大きな浮遊磁場を発生させる傾向があるため、高密度集積の磁気抵抗メモリには適用が困難である。

今回AIMRの鈴木和也助教らは、浮遊磁場をほとんど発生させない新しいフェリ磁性体を開発し、磁気異方性を電圧で制御可能な磁気トンネル接合を実現した。これを可能にしたのは、コバルトガリウム(CoGa)上に成長させた非常に薄いマンガン(Mn)層を接合に取り入れたことだった。Mnはバルクでは反強磁性体か常磁性体であるが、研究チームはCoGa上に成長させた原子数層程度の厚さのMnナノ層がフェリ磁性体として振る舞い、垂直磁気異方性を有することを見いだした。

鈴木助教らが作製した磁気トンネル接合素子には、CoGaシード層上に成長させたMnナノ層が導入されており、Mnナノ層の上に、酸化マグネシウム(MgO)トンネル障壁とCoFeB磁性層が積層されている(図参照)。接合に対して水平方向と垂直方向に磁場を印加して電気抵抗を測定したところ、Mnナノ層が大きな垂直磁気異方性をもつことが明らかになった。さらに、電気抵抗曲線の形状は電圧印加により変化していた。これは、Mnナノ層の磁気異方性が電圧によって制御されていることを示しており、MnとMgO界面における電子状態が電圧によって変化することを示唆している。

今回の結果は、磁気トンネル接合素子の研究において新たな方向性を提起する。鈴木助教は、「今回の研究で生み出された手法は、他のMnを用いた材料にも応用できるかもしれません」と期待を語る。「今後は、垂直磁化材料に変換可能な非強磁性Mn系材料の研究を進めていく予定です 。今回の研究成果とコンセプトは、将来のスピントロニクスデバイスに向けた新しい磁性材料の研究に大きく貢献するでしょう」。

References

  1. Suzuki, K. Z., Kimura, S., Kubota, H. & Mizukami, S. Magnetic tunnel junctions with a nearly zero moment manganese nanolayer with perpendicular magnetic anisotropy. ACS Applied Materials & Interfaces 10, 43305–43310 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。