コロイド状ナノ結晶: ジャミング状態のメソ構造材料
2018年11月30日
界面で固体−液体間の切り替えが可能なナノ結晶集合体は、ソフト磁気アクチュエーターや全液体プリンテッドエレクトロニクスへの応用が見込まれる
界面で調節可能な状態変化特性を示すナノ結晶からなる新材料が、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって開発された1。このナノ結晶集合体の固体状態と液体状態の間での変化は、適切な化学添加剤を用いることで制御できる。触媒反応や全液体エレクトロニクスからエネルギー貯蔵まで、この動的材料の応用は多岐にわたる。
AIMRをはじめ複数の研究機関に所属するThomas Russell教授と、共同で研究を率いたローレンス・バークレー国立研究所(米国)のBrett Helms主任研究者によると、これまで、コロイド状ナノ結晶は多くの固体構造体を作り出すのに用いられてきたが、形状が変化し続ける液体のような状態を維持するナノ結晶への関心は低かったという。
「二次元ナノ結晶集合体を界面で固体−液体間状態変化させることのできる方法を開発したい、というのが研究の動機でした」とHelms主任研究者は説明する。ナノ結晶集合体は固化すると一定の形状をとるが、ナノ結晶液体は変形可能な状態を維持し、興味深い動的特性を示す。こうしたナノ結晶集合体が液体を包み込んで形状変化特性を維持すれば、数多くの新しい応用が考えられるようになる。
研究チームはまず、正に帯電した酸化鉄ナノ結晶を極性有機溶媒中に分散させて、シリンジ内に吸引した。そして、そのシリンジの先端をポリ(ジメチルシロキサン)油にアミン末端ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS-NH2)を溶かした別の液体に浸けた後、シリンジの先端からナノ結晶分散液の液滴を押し出して、二つの液体の間に明確な界面を形成した。
この界面で、興味深い化学現象が起こった。一方の液体中のPDMS-NH2が、もう一方の液体中の帯電ナノ結晶と結合して、界面にわたって安定なナノ結晶単層膜を形成したのである。液滴をわずかにシリンジ内に吸引して単層膜を圧縮すると、単層膜は「ジャミング」によって固体状態に変化し、ぶら下がった液滴上で永続的なしわを形成した。
ところが、研究チームが帯電小分子を極性有機溶媒に加えたところ、その材料特性は変化し、これらの帯電小分子はナノ結晶と可逆的に結合して、PDMS-NH2のナノ結晶との結合と競合した(図参照)。液滴をシリンジ内に吸引すると、しわは出現したが後に消失した。これは、ナノ結晶単層膜が元の動的な液体のような状態に再構成されたことを示している。また、鉄系ナノ結晶を用いたために、外部磁場の印加によって液滴を一時的に変形させることもできた。
「つまり、私たちはソフト磁気アクチュエーターを作り出したのです」とHelms主任研究者は言う。「将来的には、触媒活性ナノ結晶を用いて流体中で分子を包み、化学反応させることもできるでしょう」。そうした系は電池のように機能することができ、エネルギーを化学的に貯蔵して後で放出させられる可能性がある。
研究チームは現在もこの系の新しい動的特性を探っている、とHelms主任研究者は言う。「次のステップとしては、今回の手法を二つの不混和流体から三次元印刷物へと発展させることを考えています」。
References
- Zhang, Z., Jiang, Y., Huang, C., Chai, Y., Goldfine, E., Liu, F., Feng, W., Forth, J., Williams, T. E., Ashby, P. D., Russell, T. P. & Helms, B. A. Guiding kinetic trajectories between jammed and unjammed states in 2D colloidal nanocrystal-polymer assemblies with zwitterionic ligands. Science Advances 4, eaap8045 (2018). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。