ブロック共重合体: ウイルス状ナノ粒子の作り方
2018年10月29日
ウイルスに似たナノ粒子を簡便な手法で作製できた
東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって、化学的に「パッチ(つぎはぎ)」状の表面を持つウイルス状ナノ粒子を作製する簡便で効果的な手法が開発された1。このようなナノ粒子は、薬剤送達やフォトニック材料など、広範な用途に役立つことが期待される。
ウイルスの大きさは20~400ナノメートル程度である。科学者たちはこれまでにもウイルスと同等サイズの人工ナノ粒子を作製してきたが、それらの表面は化学的に均一であることが多かった。これに対して、天然のウイルスの表面にはさまざまな官能基が存在し、非常に反応しやすい。表面を化学的に変化させることができる人工ナノ粒子を作製できれば、多くの分野で応用の可能性が大きく広がるはずである。
AIMRの藪浩准教授は、「化学的に修飾されたパッチ構造をもつナノ粒子は、高効率触媒やバイオセンサー用の機能性ナノ材料を作製するためだけでなく、合成ポリマー粒子のナノスケールの構造をウイルスのように制御できるようにするためにも重要です」と言う。
藪准教授らは今回、そうした化学的パッチ構造を持つナノ粒子を直接作製する方法を考案した。まずは、2種類のポリマーからなる分子(片方のポリマーには官能基を導入してある)を有機溶媒に溶かす。これらのポリマーは疎水性なので、水を加え、有機溶媒を蒸発除去すると、2種類のポリマー鎖が集合してナノ粒子を形成する。その際には、同じ種類のポリマー同士が凝集しやすくなる。
ナノ粒子中の2種類のポリマーの分布は、析出条件を変えることによって制御できる。ポリマー濃度などの条件を変えると、ポリマーディスクが交互に並んだ縞模様のナノ粒子(図参照)や、表面に円形の模様があるナノ粒子や、タマネギのような層構造を持つナノ粒子を作製することができる。
研究チームは、電子顕微鏡による観察に加え、片方のポリマーに蛍光色素を結合させることによって、さまざまなナノ粒子構造の電子顕微鏡画像および蛍光顕微鏡画像を得た。
藪准教授は、「機能性ナノ構造粒子を作製するこの手法は、天然ナノ粒子に似た界面特性を持つ粒子の実現に一歩近づくものです。将来的には、基礎生物学的研究やバイオテクノロジーに利用できる興味深い材料が得られるかもしれません」と期待する。
導入した官能基はナノ粒子の表面に存在し、化学反応によって容易に修飾することができるため、幅広い分野への応用可能性がある。
研究チームは今後、こうしたナノ粒子の可能性を探っていきたいと考えている。「ナノ粒子を酵素や抗体で化学的に修飾して、イムノアッセイ用のバイオセンサーやインテリジェント型薬物担体として使えるようにしたいと思っています」と藪准教授は言う。「また、生体内で起こるようなカスケード反応を実現させるために、異なる種類の酵素を並べた化学触媒のテンプレートとして利用することも考えています」。
References
- Varadharajan, D., Turgut, H., Lahann, J., Yabu, H. & Delaittre, G. Surface‐reactive patchy nanoparticles and nanodiscs prepared by tandem nanoprecipitation and internal phase separation. Advanced Functional Materials 28, 1800846 (2018). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。