芳香族炭化水素: ポリアセンの意外な電子的特性

2018年09月25日

金属ドープポリアセン化合物の磁気的特性や超伝導を含めた電気的特性が調べられた

アルカリ元素を導入したポリアセンの結晶構造では、平面有機分子の間にアルカリ元素(緑色の球)が位置している。
アルカリ元素を導入したポリアセンの結晶構造では、平面有機分子の間にアルカリ元素(緑色の球)が位置している。

© 2018 Katsumi Tanigaki

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らは、7年におよぶ系統的な研究の結果、ある種の有機物質群が特異な電子的特性を示すことを見いだした1。この発見は、高温超伝導体の研究に示唆を与える可能性がある。

近年、トランジスタなどの電子部品に炭素系分子が使用される機会が増えている。こうした有機物質は、光や電場や磁場に非常に敏感であり、化学修飾による特性の微調整が比較的容易である。

そうした有機物質の一つに、ベンゼン分子が直線状につながった構造をもつ、ポリアセンと総称される炭化水素系物質がある。最も単純なポリアセンは二つのベンゼン環を持つナフタレンで、ベンゼン環を一つずつ加えていくと、アントラセン、テトラセン、ペンタセンになる。また別の炭化水素としては、ピセンやフェナントレンのように、ベンゼン環が直線状ではなくジグザグ状につながったものもある。

これまでの研究で、これらの炭化水素に他の元素を添加(ドープ)すると抵抗がなくなり電流が流れる超伝導特性を示すようになることが報告されているが、この挙動をめぐっては現在も議論が続いている。

AIMRの谷垣勝己教授らは、こうしたアルカリ元素導入によりキャリアがドープされた分子の電子的物性を調べた。カリウムドープフェナントレンとカリウムドープピセンについては、複数のテストの結果、以前の報告とは異なり、金属でもなく超伝導を発現しないことがわかった。

これらの物質の挙動をもっとよく理解するため、研究チームは、従来よりも高品質のドープポリアセン結晶を作成する方法を開発した。作成した化合物のX線回折測定を行ったところ、カリウム原子が平面有機分子の間にトラップされていることが明らかになった(図参照)。これは、ドープする金属原子の大きさが結晶の構造と特性に著しい影響を及ぼすことを意味している。実際、カリウムドープアントラセンとは異なり、ルビジウムドープアントラセンは、常磁性と呼ばれる磁性を示す。

今回調べられたドープポリアセンのすべてが通常の条件下で電気絶縁体であることも明らかになった。ただし、カリウムドープテトラセンとカリウムドープペンタセンが古典的な絶縁体であるのに対し、カリウムドープアントラセンとカリウムドープナフタレンはモット絶縁体であるため、特定の条件下で伝導体になる可能性がある。例えば、研究チームは、圧力の増加とともにカリウムドープアントラセンの電気抵抗が徐々に低下することを見いだしている。谷垣教授は、「ドープポリアセンの固有の電気輸送特性を初めて系統的に測定することができました」と説明する。

モット絶縁体中の電子は、高温超伝導体中の電子と同じように相互作用する可能性があるため、今回の結果は、今後の超伝導研究に有用な手掛かりを与えるかもしれない。谷垣教授は、「今回の常圧から高圧までのドープポリアセンの研究は、今後の高温超伝導体の探索的研究に重要な知見を与えるかもしれません」と言う。

References

  1. Heguri, S. & Tanigaki, K. Carrier-doped aromatic hydrocarbons: a new platform in condensed matter chemistry and physics. Dalton Transactions 47, 2881−2895 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。