電荷密度波: 基板を真似る金属膜

2018年08月27日

基板上に形成された金属極薄膜の電子の振る舞いは、基板の電子の影響を受ける

ビスマス(Bi)極薄膜の電子は、伝導電子帯と価電子帯の間にバンドギャップがなく、他の金属の電子と同じように振る舞う(左)。しかし、二硫化タンタル(1<i>T</i>-TaS<sub>2</sub>)基板上に作成したBi膜の電子は、電荷密度波を形成するため、バンドギャップが生じる(右)。
ビスマス(Bi)極薄膜の電子は、伝導電子帯と価電子帯の間にバンドギャップがなく、他の金属の電子と同じように振る舞う(左)。しかし、二硫化タンタル(1T-TaS2)基板上に作成したBi膜の電子は、電荷密度波を形成するため、バンドギャップが生じる(右)。

© 2018 Seigo Souma

基板上に形成された極薄金属層の電子が、その下の基板中の電子と同じ振る舞いをする場合があることを、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者が明らかにした。具体的には、二硫化タンタル(1T-TaS2)基板上に形成された原子2個分の厚さのビスマス(Bi)層の電子が、電荷密度波という周期的構造を形成するのだ1。この発見は、金属膜中の電子の新しい制御法を可能にし、トポロジカル材料の電界効果トランジスタなどのデバイスへの応用に大きな影響を与えると期待される。

材料間の界面は興味深い現象が生じることが多く、科学者にとって非常に興味深い場所である。特に、基板上の薄膜では基板の特性が発現する場合があり、超伝導体上の金属膜が界面近傍で超伝導を示したり、非磁性金属が強磁性材料との界面近傍で磁性を持ったりすることがある。

今回AIMRの相馬清吾准教授らは、電荷密度波についても類似の効果が現れることを見いだした。電荷密度波とは、ある種の材料において形成される波状の秩序状態の電荷配列である。

研究チームは、電荷密度波が形成される1T-TaS2と電荷密度波が形成されないシリコンの2種類の基板の上にBi極薄膜を形成した後、光電子分光法と第一原理計算を用いてBi膜の電子状態を調べた。

その結果、シリコン基板上のBi層の電子は正常な振る舞いから逸脱しておらず、シリコン基板はBiに影響を及ぼさないことがわかった。一方、1T-TaS2基板上のBi層には電荷密度波が形成され、これによりBi層内の伝導電子と束縛電子のエネルギー準位にギャップが生じていた(図参照)。

研究チームが「電荷密度波近接効果」と呼ぶこの効果から、電気系エンジニアが金属中の電子を操作する新しい方法が生まれるかもしれない。「今回の結果は、この効果を利用してBi膜の電子バンド構造を制御できることを示しています」と相馬准教授は説明する。「この効果によって比較的大きなエネルギーギャップが開くので、電荷密度波材料と接している膜の電子状態の調節に役立つでしょう。例えば、電界効果トランジスタに組み込めば、エネルギーギャップのスイッチングが可能になるかもしれません」。

現在、研究チームは、1T-TaS2基板上に複雑な化合物を成長させようとしている。「今回の研究でBiを使ったのは、単一の元素からなり、比較的成長させやすいからです」と相馬准教授は言う。「次は、1T-TaS2基板上にトポロジカル絶縁体膜やトポロジカル半金属膜を成長させて、電荷密度波近接効果を調べようと思っています。電荷密度波を用いてこれらのトポロジカル物質のバンドギャップを制御できることがわかれば、トポロジカル材料のデバイス応用に向けた重要なブレークスルーとなるでしょう」。

References

  1. Yamada, K., Souma, S., Yamauchi, K., Shimamura, N., Sugawara, K., Trang, C. X., Oguchi, T., Ueno, K., Takahashi, T. & Sato, T. Ultrathin bismuth film on 1T-TaS2: Structural transition and charge-density-wave proximity effect. Nano Letters 18, 3235−3240 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。