ソフトマター物理学: 液体の中に液体を3D印刷

2018年07月30日

新しい3D印刷技術によって、油の中に安定した水の構造体を形成することが可能になった

油の中に3D印刷された水のらせん構造と、その中心を通って上昇する気泡。
油の中に3D印刷された水のらせん構造と、その中心を通って上昇する気泡。

© 2018 Thomas Russell

東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の科学者たちが、市販の3次元(3D)プリンターを改造して、液体の中に別の液体を印刷することに初めて成功した1。3D印刷の可能性を広げるこの研究により、幅広い応用が期待できる新種の材料の創出に向けて道が開かれた。

従来の印刷には、固体か、冷却により固化する液体が用いられてきた。例えば、写真の焼き付けには紙の表面に感光乳剤を塗布した印画紙が必要であり、3Dプリンターには冷えると固まる液体ポリマーが用いられることが多い。

今回、AIMRのThomas Russell教授が率いる研究チームは、油の中に水を3D印刷することで、液体の中に別の液体からなる安定な構造体を形成した。研究チームは水に金ナノ粒子を添加し、油には界面活性剤を添加した。ナノ粒子と界面活性剤は互いに引き付け合うが、エネルギー的な理由から、どちらもそれぞれを取り巻く溶媒中に留まろうとする。その結果、水と油の界面を介して結合が形成され、界面にまたがってナノ粒子−界面活性剤層が形成される。この層は、厚さが20ナノメートルしかないにもかかわらず固体のように安定していて、その上、容易に変形できる。

第一著者であるローレンス・バークレー国立研究所(米国)のJoe Forthポスドク研究員は、「従来の3Dプリンターでは、プラスチック、金属、ヒドロゲルなどの固体材料に加え、細胞や臓器といった生体材料まで作製されています」と言う。「いずれも興味深く有用な材料ですが、古いパラダイムに基づくものです。今回の手法が面白いのは、全く新しい種類の材料を作製できるところなのです」。

研究チームは、市販の3Dプリンターを改造することによって印刷プロセスを自動化した。「すべて安価に行うことができました」とForth研究員は振り返る。「3Dプリンターは、プラスチック印刷用の下位機種を購入しました。プリントヘッドを取り外し、代わりにシリンジポンプとマイクロ流体チューブを取り付けました。もう一度やり直せるなら、全く違ったやり方をするでしょうが、印刷に関する知識がほとんどない状態から出発したことを考えると、実験は極めてうまくいったと思います」。

今回の新しい手法は多くの可能性を開くものだ。例えば、印刷した構造体の中に液体を流すことができるので、液体のみから構成されるマイクロ流体デバイスへの応用が考えられる。また、印刷した水を容器として生物を収容し、油と水の界面を挟んで化学物質を交換させることもできるかもしれない。

「ソフトマター物理学とナノテクを組み合わせることで、これまでにない材料を創出できるのです。世界の科学者たちがそうした材料で何をしようと考えるのか、見てみたいです」とForth研究員は言う。

研究チームは現在、印刷した液体を用いて2次元材料の機械的特性を探っている。また今後は、印刷した材料に磁場を印加することによりどのような振る舞いをするのか調べる予定である。

References

  1. Forth, J., Liu, X., Hasnain, J., Toor, A., Miszta, K., Shi, S., Geissler, P. L., Emrick, T., Helms, B. A. & Russell, T. P. Reconfigurable printed liquids. Advanced Materials 30, 1707603 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。