カプセル化: すばやく包み込む

2018年05月28日

柔軟なポリマー膜を水面に浮かべ、その上から液滴を滴下するだけで、液滴をポリマーですばやく包んでカプセル化することができる

今回のカプセル化法では、異なる形の膜(メイン画像では三角形、 挿入画像では円形の膜)を用いることで、様々な形状のカプセルを作ることができる。
今回のカプセル化法では、異なる形の膜(メイン画像では三角形、 挿入画像では円形の膜)を用いることで、様々な形状のカプセルを作ることができる。

参考文献1よりAAASの許可を得て転載。

液体をポリマー膜ですばやく包む汎用的かつ効果的な手法が、東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによって開発された。この手法は、有害液体の閉じ込めや化学反応容器の作製に用いることが可能となるであろう1

液体を他の液体で包むことは珍しくなく、食品業界で用いられるエマルションや、流出油を封じ込める化合物などはその例である。しかし、用途によっては、薄い固体のラッピング材を用いることでより高い剛性が得られる。

今回AIMRのThomas Russell教授とマサチューセッツ大学アマースト校のNarayanan Menon教授は、米国の2人の共同研究者と共に、わずか数十ミリ秒で液滴をポリマー膜で包むことのできる単純で巧妙なラッピング法を考案した。

この簡便な手法では、液体の表面に浮かべた薄く小さいポリマーシート上に、ラッピングしたい液滴を特定の高さから落とすだけでよい。あとは液滴が液体中に沈み込む際に、ポリマーシートが液滴を包んで完全に閉じ込める。ポリマーの合わせ目は表面張力によってほぼ完全に閉じていて、すき間や重なりは見られない。

この手法は単純だが、汎用性は非常に高い。従来のカプセル化法では基本的に球状のカプセルしか形成できないのに対し、今回の手法では、ポリマー膜の形を変えることで様々な形のカプセルを形成できる(図参照)。使用する液体の組み合わせを変えることもでき、水に油滴を落とす操作でも油に水滴を落とす操作でもカプセルが形成された。Russell教授は、今回の手法は他のカプセル化材料にも適用できると指摘する。「本研究ではポリマーを使って液体を包みましたが、例えば薄い金属シートなど、薄くて曲げやすいシートであればどのようなものでも使えるでしょう」。

今回の手法は多くの応用可能性が考えられる。「事前に調整したシートや不浸透性材料で作ったシートを使うことで、流出油などの汚染物質、有毒物質、高反応性物質などを容易に封じ込めることができます」とRussell教授は言う。「複数の液体を別々に包み、並べて保管しておくこともできます。反応生成物が必要になったら、カプセルを壊して内容物同士を反応させればよいのです」。

研究チームは、より複雑な系を用いて研究を広げようとしている。「界面エネルギーがこのプロセス全体を駆動しているので、シートの両面でそれぞれ界面相互作用が異なるような二層複合材料を用いる研究を進めています」とRussell教授は言う。「カーボンナノチューブのようなロッド状フィラーを配向させた複合材料など、方向によって曲げやすさが異なる構造体も調べています」。

References

  1. Kumar, D., Paulsen, J. D., Russell, T. P. & Menon, N. Wrapping with a splash: High-speed encapsulation with ultrathin sheets. Science 359, 775−778 (2018). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。