ナノ多孔質金: 表面構造の微調整で触媒性能が向上

2018年01月29日

ナノ多孔質金の細孔表面の構造を調節することで、触媒性能をさらに高めることができる

AIMRの研究者らは、ナノ多孔質金に印加する電圧サイクルの走査速度を制御することにより、異なるタイプの表面を形成することに成功した。
AIMRの研究者らは、ナノ多孔質金に印加する電圧サイクルの走査速度を制御することにより、異なるタイプの表面を形成することに成功した。

図中文字
Initial nanoporous gold: 初期状態のナノ多孔質金

© 2017 Zhili Wang

ナノ多孔質金に電圧サイクルを印加して表面構造を整えるという簡単な方法で触媒性能を向上させられることが、AIMRの研究者によって実証された1

金は化学反応性が低いことで知られる。それゆえ、金の指輪は変色や腐食の心配がない。しかし、サイズをナノメートルのオーダーまで小さくすると、金も化学反応に関与し始め、反応を高速化する触媒として使用できるようになる。

金ナノ粒子触媒は広く研究されてきたが、近年、より安定な形態の金が注目を集めている。ナノスケールの穴が無数にあいたナノ多孔質金である。ナノ多孔質金は、金と銀を合金化した後、強い酸で銀を溶かし出し、直径数十ナノメートルの細孔を持つ金を残すことによって作製される。

AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授が率いる研究チームは、ナノ多孔質金の細孔の表面構造を調節することで触媒特性を向上させる方法を見いだした。作製中、ナノ多孔質金に電圧サイクルを印加し、その走査速度を変化させることによって、異なるタイプの表面を得ることができた。例えば、毎秒5ミリボルトの速度で電圧を上下させると金の最密充填面である{111}面が形成されたが、その10倍の毎秒50ミリボルトにすると{100}面が得られた(図参照)。

研究チームは、こうして得られたナノ多孔質金をエタノール酸化反応の触媒として用いることで、触媒性能の実証を行った。エタノール酸化反応は、環境に優しいエタノール燃料を用いる燃料電池を実現する上で重要な反応である。実験の結果、{111}面を多く含むナノ多孔質金は、従来のナノ多孔質金よりも活性が高いことが明らかになった。実際、エタノール酸化反応の触媒としてこれまでに報告されている金触媒の中では、最高の活性を示した。

研究チームのポスドク研究員であるZhili Wang産官学連携研究員は、「今回の結果は、表面エンジニアリングによる三次元ナノ多孔質触媒の触媒活性の向上に向けて新たな道を開くばかりでなく、エネルギーや環境分野の化学反応や電気化学反応に応用できる、表面構造の調節が可能な三次元ナノ多孔質触媒の開発の方向性を示すものです」と言う。

今回の手法で重要なのは、これまでの手法と異なり、界面活性剤を使用していないことである。界面活性剤は細孔から流し出すことが難しく、残留界面活性剤によってナノ多孔質触媒の触媒活性が低下する可能性があるからだ。

研究チームは、今回の手法を用いて、他のタイプのナノ多孔質触媒を作製する予定である。「次は、二酸化炭素還元反応や窒素固定反応の触媒として、表面構造を調節できる三次元ナノ多孔質の白金や銀を作るつもりです」とWang研究員は言う。

References

  1. Wang, Z., Ning, S., Liu, P., Ding, Y., Hirata, A., Fujita, T. & Chen, M. Tuning surface structure of 3D nanoporous gold by surfactant-free electrochemical potential cycling. Advanced Materials 29, 1703601 (2017). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。