磁化ダイナミクス: 隠れた効果が明らかに
2017年07月03日
スピントロニクス応用向けの材料系で、これまで考慮されていなかった効果が重要な役割を果たしていることがわかった

© kyoshino/E+/Getty
磁性薄膜の磁気特性において、これまで考慮されていなかった物理的効果が重要な役割を果たしていることが明らかになった1。東北大学材料科学高等研究所(AIMR)の研究者らによるこの発見は、スピンベースのナノデバイスを利用した実用技術にとって重要な意味がある。
近年の新技術の多くは、材料の磁性の時間的変化に依拠している。電子の電荷のみを利用する従来型エレクトロニクスデバイスとは違い、電子の角運動量(スピン)も利用するスピントロニクスデバイスにとって、磁化ダイナミクスは特に重要だ。
強磁性共鳴(ferromagnetic resonance:FMR)として知られる分光法は、材料科学者が磁化ダイナミクスの研究に用いる標準的なツールであり、電子スピンの整列に起因する永久磁化を持つ鉄などの強磁性材料の磁化を調べるのに利用される。
今回、AIMRの松倉文礼教授らは、異なる材料を積層させた強磁性系のFMRスペクトルを正確に解釈するためには、これまで見落とされていた物理的効果が必要であることを発見した。
研究チームは、ナノスケール高性能スピントロニクスデバイスの有望な構成要素であるCoFeB–MgO薄膜のFMRスペクトルの線幅が、温度や膜厚とともにどのように変化するかを調べたところ、FMR線幅が温度の上昇に伴い先鋭化するという予想外の結果を得た。そこで考えられる原因を絞り込んでいくと、FMR線幅の先鋭化はモーショナル・ナローイング(異なる2種の材料間の界面の熱揺らぎに起因する効果)が原因であるという結論に達した。これまでの研究では、モーショナル・ナローイングは強磁性材料のバルク特性に紛れてしまっていたため、見落とされてきた。今回それが明らかになったのは、異種材料からなる強磁性系に関連した技術が進歩したおかげである。
「私たちにとっては驚きの発見でした」と松倉教授。「2年ほど前、東北大学の研究グループとシンガポールの南洋理工大学の研究グループが別々に、FMRスペクトルの線幅が温度とともに奇妙な変化をすることに気づきました。私たちは南洋理工大学の研究グループと共同研究を始めましたが、当初はその実験結果を説明することができませんでした。日本原子力研究開発機構の理論グループとのディスカッションを通して、何が起こっているのかようやく理解できるようになったのです」。
松倉教授は、「異種材料界面を有する系は、多くのスピントロニクス応用の開発に用いられているため、CoFeB–MgO以外の材料系でもモーショナル・ナローイングを調べることが極めて重要になります」と指摘し、「今回の結果は、スピントロニクスデバイスに、外的手段による界面異方性の制御という新しい概念をもたらすことが期待されます」と付け加えた。
References
- Okada, A., He, S., Gu, B., Kanai, S., Soumyanarayanan, A., Lim, S. T., Tran, M., Mori, M., Maekawa, S., Matsukura, F. et al. Magnetization dynamics and its scattering mechanism in thin CoFeB films with interfacial anisotropy. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 114, 3815–3820 (2017). | article
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