単一細胞解析: ダブルバレルプローブで細胞内のmRNAの局在を探る

2017年01月30日

走査型イオンコンダクタンス顕微鏡法において一つのナノピペットでイメージングとサンプリングの二つの操作を続けて行う技術は、単一細胞内での遺伝子発現の高速マッピングを可能にすることが期待される

研究チームは、解析対象の細胞をイメージングした後、この画像を用いて、細胞の核付近(左)と周辺部(右;左の画像の赤い枠内を拡大した画像)からmRNAサンプルを採取した。赤色の×印はサンプリング点を表す。
研究チームは、解析対象の細胞をイメージングした後、この画像を用いて、細胞の核付近(左)と周辺部(右;左の画像の赤い枠内を拡大した画像)からmRNAサンプルを採取した。赤色の×印はサンプリング点を表す。

参考文献1より許可を得て改変。
© 2016 American Chemical Society

1個の細胞内の別々の箇所からメッセンジャーRNA(mRNA)サンプルを採取する新技術が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らによって開発された。新技術のカギとなるのは、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡法の通常のナノピペットの代わりに「ダブルバレルナノピペット」を用いることだ。研究チームは単一のナノピペットの二つのバレルを異なる液体で満たすことにより、細胞試料イメージングの顕微鏡チップとして用いた後に、画像で特定した目的の箇所からmRNAを抽出するためのサンプル採取チップとして用いることができた1

この手法は、単一細胞内の遺伝子発現の変動を調べるハイスループット測定法となる可能性があり、そこからもたらされる情報は、さまざまな組織の細胞が機能する仕組みに関する理解を深めるのに役立つだろう。

このダブルバレル法は、AIMRの末永智一教授と珠玖仁教授らによって開発されたもので、単一の細胞のイメージングとサンプル採取という二つの技術を組み合わせたものである。

第1段階は、水溶液で満たしたナノピペットで試料上を走査する電気化学イメージング技術である。ナノピペットチップに電圧をかけるとチップからイオンが流れ出るが、チップが細胞に接近してその上を通過する際、イオンの流れは減少する。このイオン流を検出することによって、試料の形状イメージングの構築が可能になる。

末永グループのプロジェクトを率いた珠玖教授は、「この顕微鏡イメージング技術は非侵襲的なので、生きた細胞にストレスをかけずに画像を得ることができます」と説明する。 「細胞表面を低倍率で走査した後、ズームアップして高解像度画像を取得し、細胞質の採取を行う箇所を探します」。

次に、同じ電気化学ピペットを用いて細胞質を採取する。ダブルバレルピペットを用いることで、第2のバレルを第1のバレルとは異なる液体で満たすことができる。研究者らは、ピペットを下げて細胞の目的の箇所に穴を開けた後、印加電圧をプラスからマイナスに切り替えて、解析用の微量の細胞質をナノピペット内に吸い込んだ。

この手法をマウスの生細胞で試したところ、単一細胞の周辺部と核付近でmRNAサンプルを採取することができ、二つの箇所の遺伝子発現に差があることが明らかになった。研究者らは、サンプル採取過程のピペットの動きを自動化することにも成功した。

これまでのところ、2段階手法を用いて検出できたのは高発現遺伝子だけである。「次の目標は、この手法の感度を向上させて、サンプリング可能なmRNA分子の種類と数を増やすことです」と珠玖教授は言う。また、この手法を改変して、細胞内のタンパク質や細胞小器官を検出できるようにすることも考えている。

References

  1. Nashimoto, Y., Takahashi, Y., Zhou, Y., Ito, H., Ida, H., Ino, K., Matsue, T. & Shiku, H. Evaluation of mRNA localization using double barrel scanning ion conductance microscopy. ACS Nano 10, 6915–6922 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。