ナノワイヤー: 直径分布を数理解析で

2016年12月26日

アモルファス合金がワイヤー形状になるか粉末形状になるか、その境界が単一のパラメーターによって決まることが、数理解析により明らかになった

パラジウム系アモルファス合金に対してガスアトマイズ法を用いて加工すると、それらの構造は、オーネゾルゲ数というパラメーターに依存することが明らかになった。オーネゾルゲ数が小さいと微小な粉末(左)が形成され、大きいとワイヤー(右)が形成される。
パラジウム系アモルファス合金に対してガスアトマイズ法を用いて加工すると、それらの構造は、オーネゾルゲ数というパラメーターに依存することが明らかになった。オーネゾルゲ数が小さいと微小な粉末(左)が形成され、大きいとワイヤー(右)が形成される。

参考文献1より複製。CC BY 4.0 © 2016 S. Yaginuma et al.

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、アモルファス合金のナノ構造を数理解析することによって、この有用な材料の形成過程について新しい知見を得た。この知見は、アモルファス合金からなるナノワイヤーの製造工程の最適化に役立つことが期待される。

一般的な原子配列のある材料とは異なり、ランダムな構造を持つアモルファス合金は、優れた機械的特性を示すため、多大な関心を集めている。特に、アモルファスナノワイヤーは、磁気センサー、繊維強化複合材料、不均一系触媒への応用が有望視されている。

AIMRの中山幸仁准教授らは、これまでに、ガスアトマイズ法を活用してアモルファス合金ナノワイヤーを作製できることを実証している。ガスアトマイズ法は、金属や合金の粉末製造法として広く用いられており、化学的に不活性なガスを高速なジェットとして、これを溶融した金属や合金へ噴射することで、こうした溶湯を「霧化」して微小な液滴や液糸にする。しかし、霧化の過程はきわめて複雑であるため、その生成物のサイズと形状を制御するのは困難だ。

このほど中山准教授のグループは、AIMRの数学者とチームを組むことによって、パラジウム系アモルファス合金からできた粉末とワイヤーの形状を統計的に解析した1。その結果、これらの形状が、溶湯の粘性と表面張力の比で表されるオーネゾルゲ数というパラメーターと関係していることを見いだした。オーネゾルゲ数が小さいときには微小粉末が形成され、大きいときにはワイヤーが生成するのだ(図参照)。

研究者らはまた、ワイヤーの直径分布が、対数正規分布という統計パターンに従いつつ、ナノサイズにまで及んでいることを明らかにした。「対数正規分布とは、確率変数の対数が正規分布をするような分布のことで、生物の大きさや種の数、経済学における収入、天文学における銀河の分布など自然界でよく見られる現象のデータ解析に広く用いられています」と中山准教授。

今回の知見は、ガスアトマイゼーション中に溶湯が分裂する様子について、より明確な全体像を描くのに役立ち、ゆくゆくは、ナノワイヤーの作製プロセスの制御につながるはずだ。

研究チームが今回の研究対象に選んだ材料は、ガラス形成能が高く、酸化しにくいパラジウム系アモルファス合金だったが、他の合金でも同じ解析ができるという。

中山准教授によると、今回の解析には数学者からの助言が非常に役に立ったという。「この研究は、AIMR融合研究プログラムの支援を受けて行われました。これは、材料科学と数学との学際研究を推進することで、工業製品化をも視野に入れて、基礎的な知見を得ることを目標とするプログラムです。統計モデルの開発を手助けしてくれる数学者との連携は、私たちにとって非常に重要でした」

References

  1. Yaginuma, S., Nakajima, C., Kaneko, N., Yokoyama, Y.& Nakayama, K. S. Log-normal diameter distribution of Pd-based metallicglass droplet and wire. Scientific Reports 5, 10711(2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。