電極触媒反応: 低コストで水を分解する

2016年12月26日

合金化効果を利用することにより、水からクリーンな水素燃料を発生させる安価な方法が開発された

ナノ多孔質の鉄-コバルトリン化物でできた電極を用いることによって、貴金属電極の数十分の1のコストで水を分解できるようになるかもしれない。図中文字Power supply: 電源
ナノ多孔質の鉄-コバルトリン化物でできた電極を用いることによって、貴金属電極の数十分の1のコストで水を分解できるようになるかもしれない。

図中文字
Power supply: 電源

© The Royal Society of Chemistryの許可を得て参考文献1より複製。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、2種類のコモンメタルから作製した安価な触媒を用いることで、水から燃料を作り出せることを示した1

水分子を切断して有用な燃料である水素を発生させる電気化学的プロセスは「水分解」と呼ばれ、再生可能エネルギー電気を貯蔵する方法として有望視されている。水分解で作った水素を貯蔵しておけば、太陽が雲に遮られたときや風のないときに発電に使用できるからである。しかし、高効率水分解に使用される電気化学触媒のほとんどは、白金などの希少な貴金属を含んでいるため、コストが非常に高いという問題がある。

今回、AIMRのYongwen Tan助手らは、合金化効果として知られる現象を利用して、白金系触媒に代わる安価な電気化学触媒を開発した。この触媒はナノ多孔質リン化物と呼ばれる材料で、コモンメタルである鉄とコバルトを含んでいる。Tan助手によれば、触媒としての性能は市販の白金系水分解触媒に匹敵するという。

ある金属元素の特性を向上させるために別の金属元素を加えた材料は、合金と呼ばれる。例えば青銅(ブロンズ)は、銅にスズを加えることで、銅よりも高い強度を実現した合金だ。合金化は材料の強度を高めるだけではない。「合金化は、新しい機能をもつ触媒材料を創製する手法としても効果的です」とTan助手。

Tan助手らは、コバルトリン化物に鉄を加えると材料の電子特性が変化し、水分解性能が向上すると予想していた。計算からは、コバルトを鉄で置換すると、最適組成のときには触媒表面への水素吸着エネルギーが白金のレベルまで減少することが見込まれた。

計算結果は良好そうだったが、実際に合金を作製するのは一筋縄ではいかない。計算どおりの合金を作製するには金属比率を厳密に制御する必要があり、従来の「湿式化学」による作製法では、この制御が厳密にできないからである。そこで研究チームは、二段階で合金を作製する手法を新たに開発した。具体的には、メルトスピニングと呼ばれる工業的手法を用いて前駆合金を急速に固化し、組成を制御してから、電気化学的エッチングにより金属副産物を溶解させて、ナノスケールの細孔を有する鉄-コバルトリン化物を得た(図参照)。その高い触媒活性は、コバルトに対する鉄の比率を微調整することによって達成した。

こうして得られた電解触媒は市販の水分解触媒に匹敵する性能を示し、しかもTan助手の見積もりによると、価格がわずか20分の1になるという。研究チームは現在、今回の新しい作製方法が、エネルギー関連や環境関連の用途に使用される各種のナノ多孔質触媒に適用できないか検討している。

References

  1. Tan, Y., Wang, H., Liu, P., Shen, Y., Cheng, C.,Hirata, A., Fujita, T., Tang, Z. & Chen, M. Versatile nanoporous bimetallicphosphides towards electrochemical water splitting. Energy & Environmental Science 9, 2257−2261 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。