3次元グラフェン: 大量の電子を蓄えるスポンジのようなナノ材料
2016年12月26日
ナノ多孔質グラフェンをイオン液体で満たすことによって、非常に優れた応答性を示すトランジスタを作製できる

© 2016 Yoichi Tanabe
東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、高結晶性3次元(3D)グラフェン構造体を利用してトランジスタを作製し、2次元(2D)グラフェン膜を用いたトランジスタの1000倍の電気容量と電気伝導度を達成した1。
グラフェン膜中の電子は、実質的に質量ゼロの粒子(いわゆるディラック粒子)として振る舞うため、並外れた易動度を示す。しかし、グラフェン膜は2Dシート構造をとるため、これを立体的に集積化して十分な応答性が得られるような3Dデバイスを実現することは困難であった。
グラフェン系デバイスの電気容量を高める方法の1つは、グラフェン膜を組み合わせて表面積の大きい多孔質ナノ構造体を作ることである。しかし、そうした3Dグラフェン「スポンジ」のグラフェンが高い電子易動度を維持することは難しい。大抵の作製方法では結晶欠陥が数多く入ってしまい、電子易動度が大幅に低下してしまうからである。
この問題を克服するため、AIMRの陳明偉(Mingwei Chen)教授らは、最近、ナノ多孔質ニッケル鋳型を使う手法を開発した。ニッケルの硬い表面を利用することで、屈曲部分や結合部分が滑らかにつながり、構造の切れ目がほとんどない「共連続」3Dグラフェン構造体を成長させることができるのだ。
研究チームは今回、こうした3Dグラフェン構造体を用いて電気2重層トランジスタを作製する手法を示した。多くのトランジスタとは違い、電気2重層トランジスタの電子流を制御するゲートは、イオン液体と固体との界面に形成されるナノメートルの薄さのキャパシタのような電荷層からできている。この電気2重層キャパシタに非常に大きい電荷が蓄積することで、非常に低い動作電圧でグラフェンの電子状態を制御することが可能になる。
共著者の田邉洋一助教は、「電界効果によって共連続ナノ多孔質材料中のキャリアの数を制御できる電気2重層トランジスタは、この材料の応用のカギとなるデバイスの一つです」と説明する。
研究チームは、損傷を避けるため超臨界条件下で3Dグラフェンを乾燥させた後、イオン液体を注入し、電気2重層トランジスタを作製した。電気伝導度の測定からは、高いトランジスタ応答性とともに、高易動度ディラック電子の特性が保たれていることが確認された。さらに、磁場中での電気伝導度測定からナノ多孔質材料の易動度を評価する方法を開発した。この電気2重層トランジスタは、非常に優れた電子スイッチング挙動と電気伝導度を示すことから、未来の電子デバイスへの応用が期待される。
田邊助教は、「私たちのナノ多孔質グラフェン電気2重層トランジスタによりナノ多孔質グラフェンのキャリア密度の制御が可能になったことから、他の電子デバイスの設計の基礎となる可能性があります。今後、高応答性光検出器などが開発されるかもしれません」と期待を語る。「ナノ多孔質グラフェンの細孔サイズを小さくすることで、電子構造にエネルギーギャップを導入できる可能性もあります。私たちの電気2重層トランジスタ技術は、こうした電子状態を探索する手段の一つになるかもしれません」。
References
- Tanabe, Y., Ito, Y., Sugawara, K., Hojo, D., Koshino, M., Fujita, T., Aida, T., Xu, X., Huynh, K. K., Shimotani, H. et al. Electric properties of Dirac fermions captured into 3D nanoporous graphene networks. Advanced Materials 28, 10304−10310 (2016). | article
このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。