カーボンナノチューブ: 輪になった分子の特性を解明

2016年11月28日

炭素原子でできたナノスケールの輪で、カーボンナノチューブの部分構造をつくる方法が明らかになりそうだ

ナノフープの輪が大きくなると、構造が柔らかくなり、ナノチューブの部分構造ではなくなる。         図中文字Rigid: 堅いFlexible: 柔らかい
ナノフープの輪が大きくなると、構造が柔らかくなり、ナノチューブの部分構造ではなくなる。

図中文字
Rigid: 堅い
Flexible: 柔らかい

© 2016 Hiroyuki Isobe

鋼鉄より強く、アルミニウムより軽く、銅よりも導電率が高い。これらは、カーボンナノチューブの並外れた特性を示す特徴である。

こうした特性のカギは、カーボンナノチューブのユニークな形状にある。カーボンナノチューブは、炭素原子の化学結合を介して中空の円筒状をつくりだしており、その全域にはπ電子が自由に流れている。東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究チームは、カーボンナノチューブの曲面構造が特性に及ぼす影響を解明しようと、より短くて単純な、ベルト状のカーボン「ナノフープ」を合成し、その形状を模した1。それにより、ナノフープ自体の興味深い化学的性質が明らかになった。

AIMRの磯部寛之教授らは、平たい板を糸でつないでネックレスをつくるように、アリーレンという平面状の芳香族分子をつなげて輪にすることで、ナノフープを合成した。ランダム合成と呼ばれる手法を用いると、6個~11個のアリーレンユニットからなる6種類のナノフープを合成することができた。

でき上がったナノフープは6種類だったが、構造は6種類よりはるかに多様になることが明らかになった。ナノフープ内のアリーレンは表と裏の2通りの向きでつなぐことができ、それらはそれぞれ異なる構造(立体異性体)となるからだ。数学者も加わった研究チームは、それぞれのナノフープに何通りの異性体があるかを計算し、例えば11個のアリーレンからなる最大のナノフープには126種類の立体異性体が存在することを明らかにした。

カーボンナノチューブの構造研究として最も重要なのは、ナノフープが小さくなるほど堅い構造になることを、温度可変核磁気共鳴(NMR)を用いて示せたことだ(図参照)。ナノフープを部分構造にするには、カーボンナノチューブの堅い円筒構造を再現する必要がある。磯部教授らが合成したナノフープの中では、6個のアリーレンからなる最小のナノフープのみが、堅い円筒構造を持つことをNMR分析が解き明かした。

「今回の研究で、円筒状の堅いナノフープと変形する柔らかいナノフープとの境界を初めて示すことができました」と磯部教授は言う。ナノチューブに似せて設計された多くのナノフープの中で、カーボンナノチューブのしっかりとした円筒形状をうまく再現できるものはごくわずかであることを示す結果であった。

今回の研究は、ナノフープのユニークな構造化学を進展させるための基礎となる。磯部教授は、「私たちの研究は、ベルト状分子の化学的性質の理解がまだ基礎研究の段階にあることを示しています」と付け加える。「今は、堅い円筒形状に隠された秘密を解き明かすことに挑戦しています。きっと多くの意外な発見があり、ベルト状分子の化学とその関連分野を豊かにしてくれることでしょう」。

References

  1. Sun, Z., Suenaga, T., Sarkar, P., Sato, S., Kotani, M. & Hiroyuki, I. Stereoisomerism, crystal structures, and dynamics of belt-shaped cyclonaphthylenes. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 113, 8109–8114 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。