リチウムイオン電池: 「穴あきグラフェン分子」の負電極で大容量

2016年09月26日

大容量でより安全な二次電池の設計のカギは、ドーナツ型の新物質にあった

「穴あきグラフェン分子」CNAPは、結晶状態で孔を揃えて積層し、ナノチャネルを形成する。リチウムイオン(黄色の球)は、層間とナノチャネルの両方に蓄積されるため、これを負電極とする電池の容量は大きくなる(図は産業技術総合研究所(AIST)の池田卓史主任研究員の厚意による)。
「穴あきグラフェン分子」CNAPは、結晶状態で孔を揃えて積層し、ナノチャネルを形成する。リチウムイオン(黄色の球)は、層間とナノチャネルの両方に蓄積されるため、これを負電極とする電池の容量は大きくなる(図は産業技術総合研究所(AIST)の池田卓史主任研究員の厚意による)。

© 2016 Hiroyuki Isobe

層状炭素の中に規則的に並んだナノチャネルを持つ負電極材料によって、全固体電池の実現への道が開かれる可能性があることを、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の共同開発チームが報告している1

現在、携帯電話などの電源に広く利用されている充電可能なリチウムイオン電池(二次電池)は、リチウムイオンの貯蔵と放出を行う負電極としてグラファイトを用いている。より大きな電気容量を求める消費者の声に応えるため、研究者たちはさまざまなナノ構造電極を研究している。加えて、従来の液体電解質よりも安全な固体電解質が登場したこともあり、新しい電極材料の探索に力が入っている。

今回、AIMRの磯部寛之教授、佐藤宗太准教授、折茂慎一教授らの研究チームは、従来のグラファイト電極よりも多くのリチウムイオンを可逆的に貯蔵・供給できるナノ構造物質を開発した。この物質は、ナフタレンから作られた[6]シクロ-2,7-ナフチレン(CNAP)という平坦な芳香族分子で、グラフェンを模した極薄の分子だが、中央にナノメートルスケールの孔が開いている点でグラフェンとは決定的に違っている。

磯部教授のグループは当初、この「穴あきグラフェン分子」CNAPを有機発光ダイオード(OLED)用の材料として設計した。そして、CNAPを用いて両極性電荷輸送を実証したが、「穴」に起因するユニークな効果は見られなかった。そこで今回、折茂教授のグループとの共同研究により、リチウムイオン電池の負電極としてCNAPが特別な機能を持つかどうかを調べることにしたのである。

研究者らは、CNAPと水素化ホウ素リチウム(LiBH4)という結晶性電解質を混ぜ合わせて粉砕した後に加圧し、コンポジット(複合材料)ペレットを作製した。そして、このペレットをリチウム箔と組み合わせて固体電池を作り、性能を調べた。その結果、リチウム貯蔵量がグラファイト電極の約2倍になるという劇的な容量増加が確認された。また、65回充放電サイクルを繰り返しても、容量は保たれたままであった。

シンクロトロンX線解析を行うと、ドーナツ型のCNAPが孔を揃えて積み重なることで、材料中をナノスケールの細孔が貫いていることが明らかになった。電極の約10%が空隙であり、層状炭素間にリチウムを通す道となるとともに、この空間にも過剰なリチウムが保持される。個々のCNAPは最大で18個のリチウムイオンを捕捉できることが示された。

CNAPと固体電解質を併用できるという発見は、佐藤准教授と磯部教授にとってうれしい驚きであったという。「ナフタレンもLiBH4も、有機化学のどの教科書にも載っていますが、この二つを混ぜる反応は載っていません。これらの試薬同士は反応しないためです。この『反応しない関係』を利用したコンポジット電極が、可逆動作のカギだったのです」。

研究チームは現在、新たな炭化水素系環状分子を合成することで、機能性細孔の設計を模索している。

References

  1. Sato, S., Unemoto, A., Ikeda, T., Orimo, S. & Isobe, H. Carbon-rich active materials with macrocyclic nanochannels for high-capacity negative electrodes in all-solid-state lithium rechargeable batteries. Small 12, 3381–3387 (2016). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。