ポリマー: 液滴を包み込む自己折り畳みシート

2015年11月30日

極薄のポリマーシートが最も効率のよい方法で液滴を包み込んでいることが新しい幾何学モデルにより明らかになった

厚さ39 nmという極薄の円形ポリスチレンシートを水滴の上に載せると、しわくちゃになって折り畳まれ、水滴を部分的に包み込む。もっと小さい水滴の上にシートを載せると、餃子のような形になる。
厚さ39 nmという極薄の円形ポリスチレンシートを水滴の上に載せると、しわくちゃになって折り畳まれ、水滴を部分的に包み込む。もっと小さい水滴の上にシートを載せると、餃子のような形になる。

© 2015 Joseph Paulsen

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とマサチューセッツ大学の共同研究チームが、人毛の太さの約2000分の1という極薄のポリマーシートを使って、餃子やサモサのような形状に液滴を包み込む方法を開発した1

「毛細管折り紙」という現象は、有毒な液体や腐食性の液体を周囲環境から隔離するのに利用できる。小さなゴム状のプラスチックシートに液滴を接触させると、表面張力効果によってシートの角が自発的に巻き上がって折れ曲がり、液滴を閉じ込めるのだ。ポリマーシートの初期設計に応じて、花びら型やピラミッド型など、さまざまな折り紙形状を作ることができるが、弾性シートを曲げるのに相当な力が必要とされるため、包み込むことのできる液体の体積には限りがある。

今回、AIMRのThomas Russell教授らは、ポリマーの曲げのエネルギーコストをほとんど取り除いた場合に毛細管折り紙機構がどのように働くかを調べた。まずはスピンコーティング法を用いて、厚さ100 nm前後の非常に柔軟なポリスチレンシートを作製した。次に、この極薄シートを注意深く操作して、シリコーンオイル中に沈めた水滴の上に載せた。そして、折り紙プロセスを開始するために、極小のストローを使って水滴の体積を徐々に減らしていった。

極薄シートは、実験開始時にはほぼ平坦であったが、水滴の体積を減らしていくと、しわが寄り、くちゃくちゃになり、折れ曲がって水滴を包み込んだ(図参照)。研究者たちは、柔軟な極薄シートは単純に水滴の形に合わせて曲がるだろうと予想していたため、これは意外な結果であった。共著者のJoseph Paulsen研究員は、「最初のうちは、こうした被覆形状の解析は非常に厄介だろうと思われました」と打ち明ける。「けれども、シートが非常に薄い場合には、小スケールの複雑な特徴を無視しても、全体的な3次元被覆形状を正しく予測できることを示せたのです」。

研究チームは、極薄シートが液滴の体積に合わせて自動的に被覆形状を最適化することを示す一般的な幾何学モデルを構築した。「シートは、一定の面積で最大の体積の液体を包み込もうとするのです。包み料理を作るときに、丸い皮でできるだけたくさんの具を包もうとするのに似ています」とPaulsen研究員。

効率のよい包み込みは液滴内の圧力を下げることも明らかになった。つまり、封入された液体が周囲の流体に漏れ出すのを長期にわたって防ぐのだ。共著者のVincent Démery研究員は、「極薄シートは、内部の液体を外部の流体から最もよく守れる形状を自発的に選択するのです」と指摘する。

References

  1. Paulsen, J. D., Démery, V., Santangelo, C. D., Russell, T. P., Davidovitch, B. & Menon, N. Optimal wrapping of liquid droplets with ultrathin sheets. Nature Materials 14, 1206–1209 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。