超伝導: 欠けていたピースが見つかった

2015年10月26日

超伝導の有無をめぐって長年論争になっていたバリウム-グラファイト層間化合物BaC6の超伝導が初めて観測されたことにより、その超伝導機構の解明も進みそうだ

BaC6の結晶構造。小さな黒色の球は二次元グラファイト層中の炭素原子を表し、大きな赤色の球はグラファイト層間に挿入されたバリウム原子を表す。
BaC6の結晶構造。小さな黒色の球は二次元グラファイト層中の炭素原子を表し、大きな赤色の球はグラファイト層間に挿入されたバリウム原子を表す。

© 2015 Satoshi Heguri

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らによって、バリウム-グラファイト層間化合物BaC6の超伝導が初めて観測された1。BaC6の超伝導転移温度は65ミリケルビンと非常に低く、超伝導体としての応用はあまり見込めないものの、「従来型」超伝導体の超伝導機構の理解を深めるという観点からは、今回の発見は非常に重要なものである。

BaC6は、二次元グラファイトシートの間に金属原子が挟まれた構造をとるグラファイト層間化合物(graphite intercalation compound;GIC)という材料グループに属している。そして、多くのGICが従来型超伝導体になると考えられている。すなわち、電子がクーパー対を形成し、結晶格子中を散乱されずに移動できるようになるため、特定の転移温度未満では抵抗なく電気が流れるのだ。

最近、加圧された硫化水素において従来型高温超伝導が発見されたことによって、従来型超伝導体への関心が再燃している。層状構造を持ち、層間距離とともに超伝導転移温度が大きく変化するGICは、従来型超伝導の研究に役立つ材料だ。しかし、GICファミリーの中でも特に重要なBaC6の超伝導に関しては、ずっとデータがない状態だった(図参照)。それどころか、BaC6が超伝導になるのかどうかをめぐって、長年論争が繰り広げられているような状況だった。理論上は超伝導になるはずと予測されていたが、これまでの実験では確認できなかったからである。

このたびAIMRの平郡諭助教と谷垣勝己教授は、兵庫大学の共同研究者らとともに、 BaC6における超伝導の観測に成功した。

「GICの超伝導機構を理解するためには、GIC超伝導体の全体像を明らかにする必要があります。今回の発見は、この全体像を明らかにした点で重要なのです」と平郡助教は言う。つまり、GICの層間距離とともに転移温度がどのように変化するのか、どうすれば超伝導を制御できるのかを、ようやく記述できるようになったのだ。

平郡助教は、「GIC超伝導体の超伝導機構は、従来の電子対形成機構の枠の中で理解されてきました。けれども我々の結果は、超伝導機構を完全に説明するためには別の要因も考慮すべきであることを示唆しています。今回の発見により、二次元超伝導の理解が深まることを期待しています」と説明する。

研究チームがBaC6の超伝導の観測に挑戦しはじめてから成功するまでには約1年かかった。「質の高い試料、特別に設計した測定セル、高性能の希釈冷凍機」が今回の成功につながった、と平郡助教は考えている。

彼らは今後も、GICの超伝導に明白な影響を及ぼすパラメーターを調べていく予定である。加えて、超伝導になるのかどうか活発に議論されている金属装飾グラフェンについても検討したいと考えている。

References

  1. Heguri, S., Kawade, N., Fujisawa, T., Yamaguchi, A., Sumiyama, A., Tanigaki, K. & Kobayashi, M. Superconductivity in the graphite intercalation compound BaC6. Physical Review Letters 114, 247201 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。