鉄系超伝導体: FeSe原子層超薄膜の高温超伝導

2015年09月28日

FeSe原子層超薄膜の表面にカリウムを吸着させることによって、高温超伝導を発現させることに成功した

チタン酸ストロンチウム基板上に形成した鉄セレン多層膜(ここでは二層膜)の表面にカリウム原子を吸着させると、膜中に電子がドープされて超伝導が発現する。青の球は鉄原子、緑色の球はセレン原子、オレンジ色の球はカリウム原子、黄色の球は電子を表す。
チタン酸ストロンチウム基板上に形成した鉄セレン多層膜(ここでは二層膜)の表面にカリウム原子を吸着させると、膜中に電子がドープされて超伝導が発現する。青の球は鉄原子、緑色の球はセレン原子、オレンジ色の球はカリウム原子、黄色の球は電子を表す。

© 2015 Takashi Takahashi

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者が、鉄セレン(FeSe)薄膜の超伝導を調べる新しい手法を開発した。この手法は、FeSe薄膜表面にカリウムを吸着させるというもので、FeSeの超伝導の起源について新たな知見をもたらした。

FeSeは興味深い超伝導体である。バルク状態のFeSeが超伝導になる温度(超伝導転移温度;Tc)は8ケルビン(K)だが、原子3個分の厚さしかない単層FeSeをチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)基板上に形成すると、Tcは約65ケルビンに跳ね上がる。ところが、単層FeSeにもう1~2層FeSeを追加すると、超伝導がすっかり消失するように見えるのだ。科学者たちは、この変化の原因を解明しようと努力している。この分野の研究者が究極の目標とする室温超伝導体の実現方法に関して、重要な手掛かりが得られる可能性があるからだ。

研究者たちは以前から、FeSe薄膜の電荷キャリアドーピングが超伝導に重要な影響を及ぼすと考えていた。しかし、この予想を検証しようにも、基板を通して膜にドーピングするしか方法がなく、この方法では限られた数のキャリアしかドープすることができなかった。

AIMRの高橋隆教授が率いる東北大学の研究チームは、FeSe膜にキャリアを導入する新しい方法として、膜表面にカリウムを吸着させることを思い付いた(図参照)1。これにより初めてFeSe多層膜の超伝導を発現させることに成功し、これまでFeSe多層膜の超伝導が観測されなかったのは、基板からのキャリアドーピングが不十分だったからであることを明らかにした。

「単純な方法ですが、意外にも、過去の研究で試みられたことはありませんでした」と高橋教授は説明する。「そのせいで、FeSe多層膜は超伝導体ではないと誤って結論付けられてしまったのです」。

新しい手法は、鉄系超伝導体超薄膜のTcを上昇させる強力な手段となる。また、今回の発見は、単層FeSeにおける超伝導が、電子とSrTiO3基板の結晶格子振動の相互作用ではなく、おそらく電子的なもののみに由来することを示唆している。

さらに、この発見が実用化につながることも期待されている。高橋教授は、「原子レベルの薄さの薄膜における高温超伝導の実証は、次世代ナノスケール超伝導デバイスの開発に向けた重要な一歩となるからです」と言う。

研究チームは、今後もこの材料を研究していく予定である。高橋教授は、FeSe膜と基板との界面が超伝導の発現に重要な役割を果たすのではないかと推測しており、さまざまな基板上にFeSe薄膜を形成し、Tcや電子構造の変化を観測しようと計画している。

References

  1. Miyata, Y., Nakayama, K., Sugawara, K., Sato, T. & Takahashi, T. High-temperature superconductivity in potassium-coated multilayer FeSe thin films. Nature Materials 14, 775–779 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。