組織工学: 溝構造を持つハイドロゲルファイバー

2015年07月27日

細胞培養の担持体として複雑な細胞組織化を誘導できるファイバーが、マイクロ流体紡糸法を用いて作製された

ゼラチンメタクリロイル製ファイバーの走査電子顕微鏡像。溝と畝の幅はいずれも20マイクロメートル。
ゼラチンメタクリロイル製ファイバーの走査電子顕微鏡像。溝と畝の幅はいずれも20マイクロメートル。

© 2015 Serge Ostrovidov

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、マイクロ流体紡糸法を用いて、骨格筋や血管によく見られる階層的な細胞組織化を誘導できるハイドロゲルファイバーを作製した1

再生医療の要である組織工学において、骨細胞から心臓細胞まであらゆる種類の細胞が増殖できるような担持体を開発することは、人体に適合する人工臓器の作製をめざす上で欠かせない。しかし、「体内の多くの組織において、細胞の種類や組成、組織化構造が大きく異なるため、それぞれに特有な要件や組織化構造を持つ細胞種を担持できる材料の開発は非常に挑戦的な課題です」とAIMRのSerge Ostrovidov助教は説明する。

Ostrovidov助教と国内外の共同研究者らは、従来のファイバー作製方法では複雑な細胞環境の維持に必要な溝構造の作製が難しいため、マイクロ流体紡糸法に着目した。

マイクロ流体紡糸法では、ファイバーの巨視的特性と微視的特性をよく制御でき、長さ数センチメートルから数メートル、直径数マイクロメートルのファイバーの作製が可能である。Ostrovidov助教は、本手法は簡便で汎用性が高いため、長い調製時間に悩まされることなくファイバーを用いる研究に集中できたと話す。

本研究ではファイバー材料の選択が重要であった。マイクロ流体紡糸法によく用いられるのはアルギン酸塩だが、この材料は細胞に対して強い反発性を示す。そこで研究チームは、アルギン酸塩の代わりに天然のゼラチンをメタクリル基で修飾して、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)ポリマーを合成した。

筋肉や血管に見られるような複雑な細胞組織体を担持させるために、ファイバーには細胞を整列させ、細胞の接着とカプセル化を促進する特性が求められる。

研究チームは、筋組織工学の基本的要素である筋芽細胞を用いて、溝を刻んだGelMAファイバーと滑らかなファイバー(図参照)による細胞の整列しやすさを調べた。その結果、溝付きファイバーの方が滑らかなファイバーより多くの筋芽細胞を整列させることがわかった。さらに、筋芽細胞と骨芽細胞(骨形成を行う細胞)について、溝付きGelMAファイバーと溝付きアルギン酸塩ファイバーによる細胞の接着とカプセル化を調べた。これにより、どちらの細胞を用いた場合も、GelMAファイバーの方がアルギン酸塩ファイバーより細胞の接着、カプセル化、生存率の点で優れていることが明らかになった。「ファイバー表面の微細な溝構造による形状的な制約が、細胞-材料間の相互作用を強めると共に、細胞整列を誘導するのです」とOstrovidov助教は説明する。

また、内皮細胞(主として血管の内表面を構成する細胞)をカプセル化した溝付きGelMAファイバーにおいて、筋芽細胞を培養できることを確かめ、2種類の細胞を「共培養」できることも実証した。

Ostrovidov助教は、「これらの結果は、層構造をもち、異なる細胞種や組織化構造からなる階層的生体組織の作製への新たな扉を開くものです」と言う。「将来的には、階層的構造を持つ組織の開発を進めていきたいと思っています」。

References

  1. Shi, X., Ostrovidov, S., Zhao, Y., Liang, X., Kasuya, M., Kurihara, K., Nakajima, K., Bae, H., Wu, H. & Khademhosseini, A. Microfluidic spinning of cell-responsive grooved microfibers. Advanced Functional Materials 25, 2250–2259 (2015). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。