固体電解質: ナトリウム系材料で高速イオン伝導を実現
2015年05月25日
イオン伝導性に優れた新しいナトリウム系材料は、リチウム系電解質に代わる安価な固体電解質として有望視されている
蓄電池(二次電池)の固体電解質として非常に有望なナトリウム系材料が、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らが率いる国際研究チームによって発見された1。この材料は、ありふれた元素から構成されているため安価であり、110℃以上の温度で並外れて高いナトリウムイオン伝導性を示す。
固体電解質は、液体電解質のように液漏れしたり爆発したりしない点で、二次電池用電解質として優れている。現時点で最高の性能を示す固体電解質はリチウム系固体電解質だが、リチウムは比較的希少な元素であるため、世界的な需要と供給のバランスによって価格が大きく変動する。そこで、より豊富に存在する元素で代替材料を作るための研究が進められている。
このたび、AIMRの宇根本篤講師と折茂慎一教授、東北大学金属材料研究所の松尾元彰講師は、東北大学大学院工学研究科および海外の共同研究者らとともに、リチウム系電解質のライバルとなりうる材料として、ナトリウムとホウ素を含有する錯体水素化物Na2B10H10に着目した。この材料を構成する3種類の元素はどれも資源量が豊富なため、安価に製造することができる。何よりも重要なのは、Na2B10H10の構造中でナトリウムイオンが高速で移動できるため、高出力用途への応用が期待できることである。
研究チームがこの材料を室温から加熱していったところ、ナトリウムイオン伝導率も徐々に増大していった。そして、温度が110℃付近になると、突然約100倍に急増した(ナトリウム超イオン伝導)。この伝導率の急増は、密に詰まった構造を持つ材料が、電荷を担うナトリウムイオンが容易に通過できる広い通路を持つ構造へと変化することによって起こる。Na2B10H10のナトリウムイオン伝導率は、これまで評価してきたナトリウム系錯体水素化物の10倍以上の大きさだった。
しかし研究者らは、Na2B10H10のナトリウム伝導率を飛躍的に高める機構はもう1つあると考え、構造体中のかご状アニオンB10H10の「再配向(回転)運動」が、何らかの形で、ナトリウムイオンの移動を促進しているのではないかと推測している(図参照)。
「私たちは、この材料が高いイオン伝導率を示すだろうと期待していました。これまで行ってきた研究の中で、錯体水素化物中の錯体アニオンの再配向運動とカチオンの移動度との間に強い相関があることがわかっていたからです」と松尾講師と宇根本講師は説明する。
研究者らは、この材料の可能性を追求したいと考えている。「Na2B10H10のナトリウム超イオン伝導が始まる温度は現時点では110℃ですが、将来的には室温付近まで低くして、この材料を電解質として用いた全固体ナトリウム二次電池を構築することを目標にしています」。
References
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Udovic, T. J., Matsuo, M., Tang, W. S., Wu, H., Stavila, V., Soloninin, A. V., Skoryunov, R. V., Babanova, O. A., Skripov, A. V., Rush, J. J., Unemoto, A., Takamura, H. & Orimo, S.-i. Exceptional superionic conductivity in disordered sodium decahydro-closo-decaborate. Advanced Materials 26, 7622−7626 (2014). | article
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