磁性材料: 磁鉄鉱のスピントロニクス特性を損なう欠陥構造

2015年03月30日

四酸化三鉄のスピン偏極率が小さくなる原因は格子欠陥の構造にあることを、理論計算と実験研究により初めて明確に特定した

四酸化三鉄のスピン偏極が小さくなる原因が、逆位相欠陥(ここでは中央の列に示す)にあることが決定的に明らかになった。
四酸化三鉄のスピン偏極が小さくなる原因が、逆位相欠陥(ここでは中央の列に示す)にあることが決定的に明らかになった。

許可を得て参考文献1より複製、CC BY 4.0 の下でライセンスされている © 2014 K. P. McKenna et al.

四酸化三鉄(Fe3O4)は歴史上最も古くから知られている磁性材料であり、地球上の鉄含有鉱物の中でも存在量が特に多い。今日では、その特異な特性から、触媒、充電池、磁気記録材料などに広く利用されているが、構造も複雑で興味深いことから基礎研究もさかんに行われている。

最近、研究者が特に注目しているのは、四酸化三鉄のスピントロニクスへの応用である。従来のエレクトロニクスが電子の電荷特性に重点を置くのに対して、スピントロニクスでは電子の電荷特性とスピン特性の両方を利用している。スピントロニクスデバイスに用いる材料は伝導電子が高度にスピン偏極している必要がある。四酸化三鉄は、室温でのスピン偏極率が100%になると予測されており、理論的にはスピントロニクスに最適な材料である。しかし、過去の実験により測定されたスピン偏極は、理論で予測されたスピン偏極よりも著しく小さく、その原因は逆位相欠陥の形成によるものと予測はされていたが、これまで断定することができなかった。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のChunlin Chen(陳春林)助教、Zhongchang Wang(王中長)准教授、幾原雄一教授らは、英国ヨーク大学のKeith P. McKenna講師と共同で理論予測と実験を組み合わせた研究を行い、四酸化三鉄のスピン偏極が小さい原因が逆位相欠陥にあることを明確に示した1

研究チームはまず、第一原理計算により四酸化三鉄の逆位相欠陥構造を予測した。次に、この構造情報を用いて欠陥の電子的・磁気的特性を推測し、原子分解能走査透過電子顕微鏡を用いて欠陥の3次元構造を初めて決定した。

理論予測と実験結果は一致しており、欠陥構造がスピン偏極を減少させていることを裏付けていた。Wang准教授は、「四酸化三鉄をスピントロニクスデバイスに利用できるように改良し、スピン偏極率が100%になるような材料を得るためには、逆位相欠陥を除去する必要があることを示しました。これは価値ある発見です」と評価する。またChen助教は、「欠陥構造は通常、高い触媒活性を示すため、触媒反応に応用できるかもしれません」と話す。

研究チームは、この研究に用いられたモデル化技術は、他の系の解析にも利用できると考えている。今回の結果はまさに理論予測と実験結果の高度な融合があってこそ達成されたものと言える。

研究チームは、四酸化三鉄中の双晶境界などの欠陥についても、その原子構造と特性を調べる予定である。

References

  1. McKenna, K. P., Hofer, F., Gilks, D., Lazarov, V. K., Chen, C., Wang, Z. & Ikuhara, Y. Atomic-scale structure and properties of highly stable antiphase boundary defects in Fe3O4 Nature Communications 5, 5740 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。