顕微鏡法: 鋭い針で太陽電池の内部を探る
2015年01月26日
高分解能原子間力顕微鏡法によって低コスト太陽電池デバイスの内部構造が明らかになった
バルクヘテロ接合(BHJ)有機太陽電池は、再生可能エネルギーである太陽光を利用するグリーンな(環境に優しい)発電法の中でも、経済的に成り立つ可能性があるものとして、特に有望視されている。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)が率いる国際研究チームは、BHJ有機太陽電池の内部の3次元画像を初めてとらえ、ポリマーが組織化されている様子を明らかにした1。これらの新しい画像は、電極界面における分子の集合の仕方に関する長年の議論に決着をつけるのに役立ち、製造戦略の改善につながる可能性がある。
BHJ有機太陽電池デバイスの活性層(光を吸収して電気に変える層)には、電子受容能を持つ物質と電子供与能を持つ物質が含まれている。太陽エネルギーを効率よく集めるためには、反対の性質を持つこの2種類の物質をうまくブレンドして、通常のポリマーブレンドよりも小さい、わずか数十ナノメートルスケールの相分離構造を形成させなければならないが、ここで1つ問題が生じる。実際のデバイスは3次元だが、分析的手法でこうしたブレンド領域を観察しようとすると、ほとんどの場合、2次元平面しか見ることができないという問題である。
AIMRのDong Wang助教、中嶋健准教授、Thomas Russell教授らの研究グループは、原子間力顕微鏡法(AFM)を用いてBHJデバイス内部の形態(モルフォロジー)を調べた。AFMでは、微小な探針を用いて3次元表面形状をなぞっていくが、通常、分子レベルでポリマー構造を解像することは困難である。研究チームは、幅がわずか1ナノメートルの極めて鋭いAFM探針を使うことによってこの限界を克服し、表面を驚くほど詳細に画像化することに成功した。
研究者らはまず、電子供与能を持つPTB7という芳香族ポリマーと、電子受容能を持つPCBMというフラーレン誘導体を含有する標準的なBHJデバイスを作製した。次に、高エネルギーアルゴンイオンを用いてPTB7:PCBMブレンド層を外側から少しずつ削り取っていくことによって、BHJ内部の動力学的に活性な層をむき出しにした。
続いて、AFM測定、X線散乱測定、電子顕微鏡測定を行って、デバイスの活性層に繊維状のPTB7が作る連続的な網目状構造があること、この網目の大きさが数十ナノメートルであること、さらに、PTB7の網目状構造とPCBMの網目状構造が相互貫入していることを明らかにした。また、電極と接する外表面領域と内部領域はそれぞれ異なった形態をとっており、PTB7結晶の間にPCBM凝集体が入り込んでいることもわかった(図参照)。
研究者らは、PTB7とPCBMが異なる比率でブレンドされているデバイスを作製し、これらのデバイスの太陽光変換効率とAFMで観察される形態の長さスケールがきれいに対応していることを見いだした。Wang助教によると、この対応関係は、高性能有機太陽電池を作製するためにPTB7繊維、PCBMの網目状構造、活性混合領域の3つを主に最適化しなければならないことを示す明確な証拠だという。
「これらの形態から、次世代ポリマーの開発には、繊維の欠陥を少なくし、繊維同士の接続性を向上させるといった工夫が必要であることが分かります」とWang助教は言う。「電子受容体については、より良質で、より微細な網目状構造領域を形成する新材料の開発が重要となるでしょう」。
References
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Wang, D., Liu, F., Yagihashi, N., Nakaya, M., Ferdous, S., Liang, X., Muramatsu, A., Nakajima, K. & Russell, T. P. New insights into morphology of high performance BHJ photovoltaics revealed by high resolution AFM. Nano Letters 14, 5727–5732 (2014). | article
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