バイオセンサー: 温和な条件で炭化水素電極を作る

2014年12月22日

新しい膜堆積技術を用いることで、従来法よりはるかに温和な条件で生体分子検出用の導電膜を作製することができた

新しい膜堆積方法は、従来法よりはるかに温和な条件下で非晶質炭化水素膜を作製することを可能にする。
新しい膜堆積方法は、従来法よりはるかに温和な条件下で非晶質炭化水素膜を作製することを可能にする。

© 2014 Yoshiyuki Kikuchi

生体適合性、化学的安定性、導電性に優れた非晶質炭化水素膜は、医用センサーの部品として有望視されている。なかでもその特性を活かせるのは、センサーの電極コーティング材として用いることである。しかし、非晶質炭化水素膜を形成する従来の方法では、高い温度とプラズマ(正負の荷電粒子に解離した気体)を必要とし、これらはいずれも膜の土台となる半導体基板を損傷するおそれがある。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の寒川研究室の菊地良幸研究員らと末永研究室のメンバーは、従来法よりはるかに温和な条件で非晶質炭化水素膜を作製できる新しい方法を開発し、電気化学センサー用の電極を作製することに成功した1

新しい手法では、孔の開いた仕切り板で隔てられた2つの反応チャンバーを用いる(図参照)。上部チャンバーにはアルゴンガスを導入してマイクロ波で励起し、アルゴン陽イオンを含むプラズマを発生させる。下部チャンバーには炭素系化合物であるトルエンを導入する。トルエンは、そこから仕切り板の孔を通って上部チャンバーに漏出する。

上部チャンバーに入ったトルエン分子は、アルゴン陽イオンによって部分的に切断されてフラグメント(断片)になった後、下部チャンバーへと戻り、-50℃の温度でシリコン基板上に吸着する。アルゴン陽イオンも同じ経路をたどるが、仕切り板の孔を通るときに電子を受け取り、中性アルゴン原子の流れを作る。この中性粒子化技術は、2000年に東北大学の寒川誠二教授のグループによって開発されたものである。下部チャンバーに入ったアルゴン中性粒子は、シリコンに吸着した炭素系フラグメントに運動エネルギーを供給してフラグメント同士を結合させ、連続膜の形成を促す。連続膜に変わる前の前駆体分子や基板を損傷する恐れのあるプラズマ由来の紫外光は、この仕切り板で遮断される。

こうして生成した膜を研究者らが調べたところ、多環芳香族炭化水素という分子が相互に網状に結合したものから構成され、電気をよく通すことがわかった。また、電気抵抗が小さく電子移動速度が大きいという、電気化学センサーに用いるのに理想的な特性を持つことも明らかになった。

研究チームは、2つのチャンバー間で圧力のバランスをうまく取り、アルゴンとトルエンの理想的な混合状態を作り出すことで、この手法を改良した。また、アルゴン流に窒素ガスを加えることによって、膜の導電性を向上させることもできた。これはおそらく、窒素原子が膜に取り込まれた結果であると考えられる。このプロセスは窒素ドーピングと呼ばれ、材料中の電子を動きやすくする。「窒素ドーピングは電極の性能を向上させます」と菊地研究員は説明する。

研究者らは現在、末永研究室と共同で、非晶質炭化水素電極を応用して、神経細胞から神経伝達物質が放出される過程の追跡など、さまざまなバイオイメージングに応用できるセンサーの開発を進めている。

References

  1. Kikuchi, Y., Wada, A., Kurotori, T., Nakano, M., Inoue, K. Y., Matsue, T., Nozawa, T. & Samukawa, S. Conductive amorphous hydrocarbon film for bio-sensor formed by low temperature neutral beam enhanced chemical vapor deposition. Carbon 67, 635–642 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。