イオン液体: 微細空間における流れ

2014年09月29日

分子モデルを用いたシミュレーションによって、ナノスケールの空間に閉じ込められたイオン液体の流れに関する新たな知見が得られた

数ナノメートル離れた2つの表面の間に閉じ込められたイオン液体の構造は、アニオンの大きさによって左右される。
数ナノメートル離れた2つの表面の間に閉じ込められたイオン液体の構造は、アニオンの大きさによって左右される。

© 2014 Royal Society of Chemistry

アニオン分子とカチオン分子からなるイオン液体と呼ばれる溶融塩は環境に優しく、構成イオンを慎重に選ぶことにより特性を微調整できる。このようなイオン液体を2つの固体表面の間に閉じ込めると表面間の摩擦が極端に低くなる場合があるため、さまざまな応用分野で従来の潤滑剤に取って代わることが期待されている。しかし今後、イオン液体の開発と商品化を推進するには、その潤滑特性の分子的起源の理解を深めることが重要である。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のFilippo Federici助手らは、2つのシリカ表面の間に閉じ込められたイオン液体分子の挙動を理論的に研究した1。「今回の研究では、潤滑剤分子の大きさと形状、分子と表面の相互作用、ナノ閉じ込め時の摩擦応答の三者の関係を調べています」とFederici助手は説明する。

研究チームは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMIM)カチオンを含有する2種類のイオン液体の挙動のシミュレーションを行った。一方のイオン液体は、BMIMとほぼ同じ大きさのビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(NTF2)アニオンを組み合わせたBMIM-NTF2液体で、もう一方は、BMIMよりはるかに小さいテトラフルオロホウ酸(BF4)アニオンを組み合わせたBMIM-BF4液体である。シミュレーションは、OH基を持つ中性のシリカ結晶表面の間にイオン液体を閉じ込めた状態について行われた。

シミュレーションの結果、「2種類のイオン液体は、同じシリカ表面に対して全く異なる応答を示しました」とFederici助手は話す。すなわち、シリカ表面の間に閉じ込められたイオン液体を構成するアニオンとカチオンの並び方が、アニオンの大きさによって違ってくることがわかったという。BMIM–NTF2液体では、NTF2アニオンが大きすぎてシリカ表面のOH基の間に収まらないため、イオン液体は同数のアニオンとカチオンからなる中性層を形成する。これに対してBMIM–BF4液体では、シリカ表面に近いところにBF4アニオン層が形成され、続いてカチオン層、アニオン層と交互に並んでいく(図参照)。

興味深いことに、こうした層形成は、2つの表面に挟まれたイオン液体の流動性に影響を及ぼす。BMIM–NTF2液体の場合、層同士がすれ違うように流れるため、隣り合う層の中にある同じ電荷のイオン同士が向かい合う。その結果、構造が不安定になり最終的には構造の再配列が起こるため、流れにくく摩擦が大きくなる。ところが、アニオン層とカチオン層が交互に並んでいるBMIM–BF4液体の場合は、同じ電荷のイオン同士がそれほど近づくことがないため、より安定に流れる。

通常の条件では、BMIM–BF4液体よりもBMIM–NTF2液体の方が粘度が低いが、数ナノメートル離れた表面の間に閉じ込めた場合は、BMIM–BF4液体よりもBMIM–NTF2液体の方が粘度が高くなることがわかっている。今回のシミュレーションは、こうした不可解な実験結果の解明に手がかりを与える。

シリカ表面のモデルをより現実的なものにすれば、さらに多くの知見が得られる可能性があるため、研究チームは現在、ガラスと同等の密度を持つ結晶シリカのシミュレーションを行っている。しかし、ガラスは非晶質なので、「その無秩序さが、界面におけるイオン液体の構造化の重要な要因になるかもしれません」とFederici助手は語る。

References

  1. Federici Canova, F., Matsubara, H., Mizukami, M., Kurihara, K. & Shluger, A. L. Shear dynamics of nanoconfined ionic liquids. Physical Chemistry Chemical Physics 16, 8247–8256 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。