スピントロニクス: 材料組成を調整してメモリー性能を向上させる

2014年08月25日

材料組成の調整が、マンガン系垂直磁化磁気トンネル接合デバイスを実用化に近づける

コバルト濃度が低い場合(左図):界面(赤色のシート)で働く相互作用により、鉄-コバルト膜のスピン(赤い矢印)とマンガン-ガリウム膜のスピン(緑色の矢印)の向きが揃う。コバルト濃度が高い場合(右図):界面(青色のシート)で働く相互作用の符号が逆転し、鉄-コバルト膜のスピンが反転し、マンガン-ガリウム膜のスピンと逆向きになる。
コバルト濃度が低い場合(左図):界面(赤色のシート)で働く相互作用により、鉄-コバルト膜のスピン(赤い矢印)とマンガン-ガリウム膜のスピン(緑色の矢印)の向きが揃う。コバルト濃度が高い場合(右図):界面(青色のシート)で働く相互作用の符号が逆転し、鉄-コバルト膜のスピンが反転し、マンガン-ガリウム膜のスピンと逆向きになる。

© 2014 Qinli Ma

現代の磁気記憶では、スピンを媒体面に対して垂直に配向させる方式が主流である。こうした配向をする材料は垂直磁気異方性材料と呼ばれ、スピンの方向を切り替える(すなわち情報を書き込む)のに必要な電流の低減やビット(スピン)の熱的安定性の向上など、従来技術に勝る点がいくつもある。

しかし、垂直磁気異方性材料を用いることが難しいときもある。例えば、スピンバルブや全光型データ記憶のような新技術では、隣り合う膜の間の磁気相互作用を制御する必要があるが、垂直磁気異方性材料ではこれが比較的難しい。特に困難なのは、隣り合う膜のスピンが反対方向を向く反強磁性配列を実現することである。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の水上成美准教授のグループは、隣接磁性層間の相互作用を制御して、強磁性配列と反強磁性配列を自在に作り分ける新しい手法を実証した1

研究チームは、マンガン-ガリウム磁性薄膜と鉄-コバルト磁性薄膜が接する界面を作製し、これらの膜のスピンが膜面に対して垂直に向くようにした。この鉄-コバルト膜のコバルト量を増やしていくと、25パーセントを僅かに超えたときに界面が強磁性配列(スピンの向きが揃っている状態)から反強磁性配列へと変化するのを発見した(図参照)。

「この特異な挙動は2つの磁性薄膜の電子構造に起因すると考えられます」と、研究グループのQinli Ma助手は説明する。膜界面の挙動は、それぞれの膜の電子のエネルギーによって支配される。コバルト含有量を増加させると鉄-コバルト膜に電子が加わるため、界面における電子のエネルギーが上昇する。エネルギーが上昇すると反強磁性配列の電子状態の数が増えるため、適当なコバルトの添加によって、膜界面は強磁性配列から反強磁性配列へと切り替わる。

「状態密度の変化を利用して界面挙動を調整するこうした新手法が、人工磁性薄膜の設計において重要な役割を果たすようになるかもしれません」とMa助手は言う。また、マンガン-ガリウム膜が磁気ランダムアクセスメモリーなどのデバイスに応用される可能性も高くなる。実際、研究チームが今回開発した膜を使って、磁気トンネル接合デバイスというメモリーデバイスを作製してみたところ、非常にうまく機能した。磁場だけを用いて、デバイスの抵抗を室温で60パーセント、低温では120パーセントも変化させることができた。デバイスが実用化される日はそう遠くない、と研究者らは考えている。

References

  1. Ma, Q. L., Mizukami, S., Kubota, T., Zhang, X. M., Ando, Y. & Miyazaki, T. Abrupt transition from ferromagnetic to antiferromagnetic of interfacial exchange in perpendicularly magnetized L10-MnGa/FeCo tuned by Fermi level position. Physical Review Letters 112, 157202 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。