ナノ材料: グラフェンを立体的に成長させる

2014年08月25日

革新的な合成法により、電子を高速で輸送できる3次元ナノ多孔質グラフェン構造体が作成された

並外れた電子物性を持つ新しい低コスト材料として期待されている3次元ナノ多孔質グラフェンの走査電子顕微鏡像。
並外れた電子物性を持つ新しい低コスト材料として期待されている3次元ナノ多孔質グラフェンの走査電子顕微鏡像。

© 2014 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

グラフェンは、その高い電気伝導性のため、将来シリコンや貴金属に代わることが有望視されている2次元シート材料である。グラフェンシート中の炭素原子が完全な蜂の巣状に結合すると、電荷キャリアは「ディラックフェルミ粒子」と呼ばれる質量ゼロの粒子として動けるようになる。この現象のため、グラフェンの電子移動度は既知のどの材料よりも高く、超高速で安価なカーボン・エレクトロニクスの時代を拓くことが期待されている。しかし、炭素原子1個分というグラフェンの薄さは、この材料を非常に価値あるものにする反面、扱いを困難にして、実際のデバイスへの応用を妨げている。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の伊藤良一助教やMingwei Chen(陳明偉)教授らのグループは、谷垣勝己教授、高橋隆教授、田邉洋一助教、菅原克明助教と協力して、2次元系の無質量ディラックフェルミ粒子を保持できるようにすることで、電子移動度を驚異的に高めた3次元ナノ多孔質グラフェン構造体を作成する方法を開発した1

近年、多くの研究者がシート状のグラフェンに複雑な3次元網目状構造を持たせようとさまざまな試みをしているが、その作製は困難を極めている。最近開発された「鋳型アシスト成長法」では、溶かして除去することのできる基板を鋳型として用いることにより、炭素原子を通常とは異なる配列に並べて、興味深い機械的・化学的特性を保持した3次元構造のグラフェンを作り出すことができる。しかし、これまでの鋳型は表面の凹凸が粗く不連続であるために、3次元構造の骨格に重大な欠陥が導入されることが多く、このようにして作製された3次元グラフェン内の電子は効率よく動くことができなかった。

そこで研究者らは、滑らかで硬い表面を持つニッケルにナノスケールの細孔を導入した共連続構造を持つ改良版鋳型を開発した。次に、水素、アルゴン、ベンゼンガスで満たした化学気相蒸着(CVD)チャンバー内でこの鋳型を慎重に加熱することによって、ニッケル鋳型全体にグラフェンの均一膜を成長させた。最後に酸を用いてニッケル鋳型を除去し、支持体が不要で滑らかに接続した3次元構造を持つナノ多孔質グラフェンを得ることができた(図参照)。

3次元ナノ細孔はCVDプロセスにおける蒸着時間と温度を調節することによって制御できるが、この3次元ナノ細孔の存在がグラフェンの電子輸送特性に非常に大きな影響を与えることが実験的に明らかにされた。通常、六角形状の結合を持つ平坦なシートを3次元形状に成形すると、曲率を構成するために幾何学的欠陥が発生する。しかし、凹凸のない滑らかに接続した鋳型を採用することによって、必要以上の幾何学的欠陥の発生が抑えられ、グラフェンの2次元系での電子的特徴が維持されやすくなった。また、さらなる実験により、さまざまな細孔サイズの3次元グラフェンが高速量子半導体としての振舞いを示すことが確認されたほか、グラフェンシート内にある細孔構造がランダムに配向していることが確認され、角度依存を持たないことが明らかとなった。

3次元ナノ多孔質グラフェンは、高い電気伝導性だけでなく、ほかのグラフェン系材料にはない画期的な特性も保持している、と伊藤助教は説明する。「3次元ナノ多孔質グラフェンには、電子デバイスに適した高い電子移動度に加えて、化学反応を促進できる細孔空間が豊富にあります。この材料を分子センサーやガスセンサー、トランジスター、リチウム―空気電池などのエネルギーハーベスティング(環境発電)デバイスに応用すれば、低コストで環境に優しいデバイスが開発できると期待しています」。

References

  1. Ito, Y., Tanabe, Y., Qiu, H.-J., Sugawara, K., Heguri, S., Tu, N. H., Huynh, K. K., Fujita, T., Takahashi, T., Tanigaki, K. & Chen. M. High-quality three-dimensional nanoporous graphene. Angewandte Chemie International Edition 53, 4822–4826 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。