材料欠陥: 転位芯構造に迫る

2014年07月28日

コンピューターシミュレーションと実験を組み合わせた手法により、結晶の欠陥部である転位は実際の材料中で複数の芯構造を有することが明らかになった

酸化マグネシウムの[100]転位における原子配列。この配列はバルクの原子配列と異なるため、転位の導入により材料特性が著しく変化する。
酸化マグネシウムの[100]転位における原子配列。この配列はバルクの原子配列と異なるため、転位の導入により材料特性が著しく変化する。

© 2014 Zhonchang Wang and Yuichi Ikuhara

結晶中の線状欠陥である転位は、材料の力学的特性を支配する重要な役割を果たしているが、その芯の原子・電子構造については未解明な部分が多い。東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の幾原雄一教授が率いる研究チームは、このたび、転位の原子構造の大規模シミュレーションと超高分解能走査透過電子顕微鏡法を併用することにより、転位芯の構造を原子スケールで明らかにした1。「転位芯の構造が変われば、実際の材料の特性に及ぶ影響も、全く違うものになる可能性があります」と王中長(Zhongchang Wang)准教授は説明する。

転位芯の構造を特定する研究はこれまでにもあり、回折法や走査透過電子顕微鏡法(STEM)が用いられてきた。しかし、回折法で得られるのは結晶構造の平均的な情報のみで、個々の欠陥の原子構造を同定することはできない。一方、STEMは原子分解能での観察が可能だが、限られた領域内の数カ所の転位しか観察することができない。「材料中に全部で何種類の転位があるのかわかっていないと、実際の材料を調べても、膨大な数の転位のうちの一部の欠陥を個別に観察するだけで終わってしまいます」と王准教授は言う。

研究チームは、コンピューター計算と観察実験を組み合わせた方法を用いて、転位の種類ごとに転位芯構造の安定な幾何学的配置を全て決定した。まず、転位に依存した特性を示すイオン性結晶の酸化マグネシウム(MgO)からバイクリスタルを作製した。その際、2個の同じMgO結晶をわずかな角度をつけて接合し、平行・等間隔に並ぶ刃状転位列を作製した。一方、コンピューターで広範な探索を行い、最適な転位構造を特定し、得られた結果と実際の電子顕微鏡像とを比較した。

今回の研究によって、MgOの[110]転位には安定構造が1つしか存在しないことが明らかになった。この知見は先行研究の結果と一致する。また、計算で得られた芯構造と同じ構造が原子分解能STEMによって得られたことから、今回の手法の有効性が証明された。さらにシミュレーションを行ったところ、[100]転位については互いに近いエネルギーを持つ3つの芯構造の存在が明らかになり、この結果も電子顕微鏡像と一致した。

「不純物は、MgOの[110]転位ではなく[100]転位の方に優先的に偏析します。[100]転位の存在がMgO固有の絶縁特性を損なうのに対して、[110]転位がMgO電子デバイスに悪影響を及ぼすことがない理由が説明できるかもしれません」と王准教授は説明する。「私たちは現在、この手法をTiO2など他の材料中の転位芯構造の研究に応用しています。さらに、個々の転位の特性を測定することによって、芯構造と機能特性の相関性を明らかにしていきたいと思います」と幾原教授は言う。

References

  1. Wang, Z., Saito, M., McKenna K. P. & Ikuhara, Y. Polymorphism of dislocation core structures at the atomic scale. Nature Communications 5, 3239 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

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