酸化物界面: スーパーマテリアルの青写真
2014年06月30日
絶縁体酸化物同士の界面に現れる電気伝導性や強磁性の発現機構が、原子スケール観察によって明らかになってきた
太陽電池やリチウムイオン電池、半導体エレクトロニクスなど、さまざまなハイテクデバイス内で、金属酸化物は重要な役割を果たしている。そして、金属酸化物の表面や界面の性質が、それらのデバイスの性能を大きく左右することが知られている。表面・界面を制御してデバイスのさらなる高効率化、あるいは新規デバイス創製を狙うためには、表面・界面構造や特性に関する原子レベルでの知見が必要である。しかし、金属酸化物薄膜の化学的組成や構造は複雑で、標準的な手法を用いて特性を評価するのは非常に難しい。さらに、表面・界面が形成する第一歩である、薄膜形成初期プロセスについてはこれまで全く不明であった。
このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の大澤健男助教(現・物質・材料研究機構主任研究員)と一杉太郎准教授らの研究グループは、走査トンネル顕微鏡を用いてチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)やその上に成長した酸化ストロンチウム(SrOx)の表面を観察し、原子分解能で薄膜成長過程を明らかにした1。
彼らは、絶縁体であるSrTiO3がアルミン酸ランタン(LaAlO3)と接するときに(LaAlO3/SrTiO3系)、その界面で電気伝導性や磁性が発現する現象に注目した。大澤助教によると、この界面の物性については多くの議論があり、特に「終端層」問題という現象に注目が集まっているという。SrTiO3は二酸化チタン(TiO2)の層と酸化ストロンチウム(SrO)の層が交互に積み重なった構造をもつため、LaAlO3/SrTiO3系は、TiO2と SrO のどちらの層がLaAlO3と接するかによって対照的な効果が表れる。すなわち、SrTiO3表面がTiO2層で終端しているLaAlO3/SrTiO3系は二次元電気伝導性が現れるが、SrO 層で終端している場合は、絶縁性のままである。
この問題を調べるため、研究グループは低温走査トンネル顕微鏡とパルスレーザー堆積システムを組み合わせて、SrO層の成長初期段階を観察した。まず、チタン原子と酸素原子が周期的に並んだTiO2層で終端したSrTiO3清浄表面を準備し、この上にパルスレーザーでSrOを少しずつ堆積していくときに表面がどのように変化するかを走査トンネル顕微鏡で観察した。
堆積したSrOの原子は凝集し、下地のTiO2層の周期性を乱すランダムな「島」状配列(SrOx)を形成した(図参照)。堆積前後の表面を注意深く比較したところ、この成長段階でチタン原子が島状SrOx内に入り込んでいることが明らかになった。
「これらの結果から、SrO層で終端しているSrTiO3基板上でLaAlO3膜を成長させると、SrOとTiの原子混合物が生成するか、Ti原子がLaAlO3膜に取り込まれるという描像が考えられます。そのため、この系の二次元電気伝導が抑制される可能性があることが分かります」と大澤助教は説明する。研究者らは、LaAlO3/SrTiO3界面の余剰チタンの振る舞いを解明することができれば、終端層問題の解決が進む一方、エキゾチックな電子物性を持つ酸化物を原子スケールで設計・開発するための青写真も描けるだろうと期待している。
References
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Ohsawa, T., Shimizu, R., Iwaya, K. & Hitosugi, T. Visualizing atomistic formation process of SrOx thin films on SrTiO3. ACS Nano 8, 2223–2229 (2014). | article
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