触媒: 劣化をピン留めする

2014年05月26日

代表的なナノポーラス触媒であるナノポーラス金が原子スケールで解析され、一酸化炭素酸化反応時の触媒の劣化が、面欠陥によって抑制されることが明らかになった

ナノポーラス金表面における一酸化炭素の酸化反応中、金原子は「双晶」界面(黄色の線)に対して直角に移動する(赤色矢印)。
ナノポーラス金表面における一酸化炭素の酸化反応中、金原子は「双晶」界面(黄色の線)に対して直角に移動する(赤色矢印)。

前景: 参考文献1(© 2014 American Chemical Society)より改変。背景: © Takeshi Fujita

ナノポーラス金は、環境に優しい条件下での汎用化学品の生産や処理を行う際の触媒として、今後幅広い応用が期待されている物質である。一酸化炭素から二酸化炭素への変換反応(CO酸化反応)は熱力学的に困難だが、ナノポーラス金の微小細孔は、酸素が関与するこうした反応に並外れた活性をもたらす。しかし、この触媒反応中にナノポーラス金が劣化し、活性が低下するプロセスを支配する機構は、今のところよくわかっていない。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の藤田武志准教授が率いる研究チームは、高性能顕微鏡技術を用いてCO酸化反応中のナノポーラス金の構造変化を観察することにより、触媒反応が誘発する原子スケールの劣化機構について、これまでにない実験的知見を得た1。この研究によって、劣化防止には面欠陥という原子配列の面状の乱れ(特に、その面に関して原子配列が対称になるような「双晶境界」が形成されること)が重要であることも明らかになり、触媒の活性と安定性の向上に向けて新たな道が拓かれた。

研究者らは、まず、非常に薄い金-銀シートから硝酸を使って銀を除去する脱合金化プロセスにより、単独のナノポーラス金箔を合成した。この金箔は、単一原子の「ステップ(段差)」で区切られた平坦で密な「テラス」でナノ細孔が構成された構造になっている。

ナノポーラス金触媒は、純COまたは純酸素雰囲気中や真空中で電子ビームを照射しても目立った変化を示さず、安定であることがわかった。ところが、CO-空気混合ガスにさらすと、反応時間が長くなるにつれてナノ細孔とリガメント(三次元的につながった金属部分)が拡大し、これに伴い触媒活性が低下した。さらに、リガメントに含まれる金と銀は、最初は均一に分散していたが、反応が進むにつれ徐々に分離していった。

藤田准教授らは、この粗大化機構に関する知見を得るために、環境制御型透過電子顕微鏡を用いて、反応条件下における個々のナノ細孔の高分解能画像を取得した。反応時間を長くすると、ほぼ丸い形をしていたナノ細孔に平坦な部分ができ、これが広がった後に隣の細孔と合体する様子が観察された。

研究チームは、この粗大化現象は、最上テラスの反応性の高い単一原子ステップを構成する金原子が、酸化反応に誘発されて高速で移動するために起こることを見いだした(図参照)。また、ナノ細孔が双晶界面に対して垂直方向に速く成長することも観察され、双晶欠陥の重要性が強く示唆された。双晶欠陥が存在しない場合には、細孔の特定方向への優先的な成長は全く見られなかった。「双晶面が効果的に金原子を表面にピン留めしており、結果としてナノ細孔の粗大化を抑制している可能性があります」と藤田准教授は説明する。

研究チームは現在、ナノポーラス金の面欠陥密度を増やすことによって、触媒の性能を高めると同時に寿命を長くすることを試みている。「この系を基にした新しい排ガス触媒の開発にも取り組んでいます」と藤田准教授は言う。

References

  1. Fujita, T., Tokunaga, T., Zhang, L., Li, D., Chen, L., Arai, S., Yamamoto, Y., Hirata, A., Tanaka, N., Ding, Y. & Chen, M. Atomic observation of catalysis-induced nanopore coarsening of nanoporous gold. Nano Letters 14, 1172–1177 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。