バイオマテリアル: 移植用細胞を低侵襲的に送り届けるナノカーペット

2014年04月25日

組織修復時に移植用細胞を患部に送り届けるための基材となる、極めて薄い高分子ナノシートが開発された

高分子ナノシート(赤色)上の網膜色素上皮細胞(緑色)単層。
高分子ナノシート(赤色)上の網膜色素上皮細胞(緑色)単層。

© 2013 WILEY-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, Weinheim

生体組織工学は、人体への細胞・組織の移植を可能にする革新的な再生医療のアプローチとなることが期待されている研究分野である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の藤枝俊宣助手(現 早稲田大学理工学術院助教)とAli Khademhosseini主任研究者が率いる研究チームは、細胞が増殖するための土台となり、特定部位への移植を容易にする、「高分子ナノシート」と呼ばれる非常に薄いシートを開発した1

藤枝助手によると、ナノシートを思いついたきっかけは、「アラビアン・ナイト」に登場する空飛ぶ絨毯のように、細胞を乗せて望みどおりの場所まで運んでくれるシートがあったらと考えたからであるという。研究チームは、マイクロパターンが刻まれたスタンプを使ってナノシートを作製した。まず、このスタンプの上に、ポリ乳酸グリコール酸共重合体という生分解性高分子を、ナノシートの操作性を高める磁性ナノ粒子とともに塗布した。次に、犠牲高分子層をあらかじめコートしたガラス表面にこれを転写し、マイクロパターンのあるナノシート層を形成した。最後に、犠牲高分子層を水で溶かすことによって、このナノシート層を表面から剥がした。

研究チームは、こうして作製したナノシートを加齢黄斑変性症の治療に使用できるかどうかを検討した。加齢黄斑変性症は、網膜の光受容体と血管網の間にある網膜色素上皮層の変性により視力が低下することで、失明に至る重篤な網膜疾患である。この疾患の治療において、変性した網膜色素上皮層の修復は極めて重要である。

注射器を使って変性部位に網膜色素上皮細胞を移植する方法は、網膜色素上皮層を修復する方法として有望である。外科的処置による治療法もあるが、こちらは感染の危険性が高いという問題がある。また、他の材料科学の研究グループは、すでに細胞送達用の天然基材や人工基材を作製しているが、これらは網膜下の狭いスペースに入れるには大きすぎた。その上、柔軟性が低いため、注射器による吸引・射出が困難であった。

生体外において網膜色素上皮細胞の組織化能を評価したところ、細胞はナノシート表面に接着した後、自己組織化して単層になることがわかった(図参照)。この時、磁性粒子のおかげでナノシートの表面粗さが増大し、細胞の移動と増殖が促進されたことにより、網膜色素上皮組織に特徴的な敷石構造を形成した。網膜色素上皮細胞を厚いシートに載せた場合、注射針の中で押しつぶされるため、少数の細胞しか生き残ることができず、そのほとんどが低い生存能力しか示さなかったのに対して、細胞をナノシートに載せた場合は、針の中で押しつぶされても細胞の生存能力は変わらなかった。また、ナノシートの形は射出後に元にもどり、ゆがみは見られなかった。

生体外で豚眼球の網膜下にナノシートを注入すると、ナノシートは適切に拡がり、黄斑部に付着した。また、注射針内において網膜色素上皮単層は細胞活性を維持していた。

研究チームは現在、幹細胞培養時の足場材料や薬物運搬体としてもナノシートを利用する方法を検討している。「ナノシートを用いて薬物や成長因子の徐放制御ができれば、移植細胞と生体組織との一体化をより促進できるかもしれません」と藤枝助手は言う。

References

  1. Fujie, T., Mori, Y., Ito, S., Nishizawa, M., Bae, H., Nagai, N., Onami, H., Abe, T., Khademhosseini, A. & Kaji, H. Micropatterned polymeric nanosheets for local delivery of an engineered epithelial monolayer. Advanced Materials 26, 1699-1705 (2014). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。