太陽電池: 電荷分離が高効率化の鍵

2014年03月31日

有機太陽電池における電荷分離のメカニズムを深く理解することは、光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率の向上に役立つ

バッキーボール(左)と高分子鎖(右)からなる有機太陽電池。電池の高効率化にとって重要なのは、電子(白丸にマイナス記号)と正孔(黒丸にプラス記号)が分離して、対向するコンタクト電極まで移動する過程である。
バッキーボール(左)と高分子鎖(右)からなる有機太陽電池。電池の高効率化にとって重要なのは、電子(白丸にマイナス記号)と正孔(黒丸にプラス記号)が分離して、対向するコンタクト電極まで移動する過程である。

© 2013 American Chemical Society 参考文献1より許可を得て改変。

有機太陽電池は、プラスチック材料が安価で大量に入手できるため、各種の太陽電池のなかでも特に有望視されている。しかし、有機太陽電池に使用される有機分子の複雑さは、太陽光が電荷に変換されるメカニズムの解明を阻み、実用化が進まない原因となってきた。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の田村宏之助教とドイツ・ゲーテ大学のIrene Burghardt教授は、有機太陽電池内での電子の分布が発電時にいかに重要な役割を果たしているかを明らかにした1

典型的な有機太陽電池は、高分子とバッキ―ボール(炭素原子が作る中空の球)から構成されている。高分子とバッキーボールの接合界面に光が入射すると、高分子内の電子が励起される。この電子が高分子中を移動すると、電子が抜けた所が「正孔」となり、これも移動することができる。バッキーボールは電子をコンタクト電極まで輸送し、高分子は正孔を輸送する(図参照)。

有機太陽電池の動作にとって重要なのは、高分子の電子が最初にバッキーボールへと移動する電荷分離の段階である。「電荷分離を高速化すると電荷損失が減少するため、太陽電池をより効率よく動作させることができます」と田村助教は説明する。「しかし、関与する有機分子が大きく複雑であるため、この過程を十分に理解することは困難でした」。

今回、田村助教とBurghardt教授は、大規模系の特性を計算できる強力な量子力学シミュレーションを用いて電荷移動のメカニズムを解析した。その結果、電荷移動は高分子の電子が単純にバッキーボールに飛び移ること(ホッピング)で始まるわけではないことが明らかになった。

量子物理学では個々の電子を空間内に広がる波として表すことができる。今回の研究により、電荷移動の始まりは、この事実に依存していることが示された。すなわち、太陽光によって電子が励起されると、その波動関数が広がる。この広がりによって、電荷移動が起こるために超えなければならないエネルギー障壁が低くなり、バッキーボールへの電子の移動が可能になるという。「一部の実験で観測されている高速で高効率の電荷移動のメカニズムは、単なるホッピングでは説明することができないのですが、私たちのメカニズムでなら説明できます」と田村助教は説明する。

高性能の有機太陽電池を設計する際には、この新しいメカニズムが重要になるだろう。田村助教は、「エネルギー障壁が低くなれば、より広い波長範囲、特に長波長側の太陽光を吸収する太陽電池の設計が可能になるでしょう」と言う。

References

  1. Tamura, H. & Burghardt, I. Ultrafast charge separation in organic photovoltaics enhanced by charge delocalization and vibronically hot exciton dissociation. Journal of the American Chemical Society 135, 16364−16367 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。