電池: 配列パターンの力

2013年12月20日

リチウム電池の正極材料表面を原子スケール空間分解能で評価することにより、リチウム原子の配列パターンが電池性能に強い影響を与える可能性が明らかになった

コバルト酸リチウム(LiCoO2)結晶の表面には、三角格子を組むリチウムイオンが存在する(左および右上の図の赤い三角形)。走査型トンネル顕微鏡法(STM)によって、表面にはこの他の秩序構造(右中央)と無秩序構造(右下)が存在することも明らかになった。これらの構造が、リチウムイオン電池の効率を左右すると考えられる。
コバルト酸リチウム(LiCoO2)結晶の表面には、三角格子を組むリチウムイオンが存在する(左および右上の図の赤い三角形)。走査型トンネル顕微鏡法(STM)によって、表面にはこの他の秩序構造(右中央)と無秩序構造(右下)が存在することも明らかになった。これらの構造が、リチウムイオン電池の効率を左右すると考えられる。

参考文献1より改変。 © 2013 American Physical Society

軽くて小さいリチウム(Li)イオンは、二次電池の正極-負極間を効率よく電荷を運ぶために適したイオンであり、この特性を利用したリチウムイオン電池は我々の日常生活において広く普及している。しかし、電極界面におけるリチウムイオンの移動過程など、原子レベルでの電池動作の理解は進んでいないのが現状である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の岩谷克也助教(現・理化学研究所 上級研究員)らは、実用化されている正極材料であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)の表面原子の直接観察に成功し、正極材料表面におけるリチウムイオンの原子レベルでの電子状態を初めて明らかにした1

 LiCoO2は、リチウムと酸化コバルト(CoO2)層が交互に重なった層状構造をとるため、リチウムを容易に出し入れできる。リチウムを抜き取ることにより、絶縁体から金属へと変化することが知られており、さらに、リチウムがさまざまな秩序で配列することによって、多彩な電子物性を示すことが理論的に示唆されてきた。しかし、これまでの研究では、空間分解能がミクロンレベルであったため、一つ一つのリチウムイオンが正極表面でどのように並んでいるのか把握することは困難であった。

この問題を解決するため、岩谷助教らの研究チームは、原子レベルの空間分解能で電子状態を可視化できる走査型トンネル顕微鏡法(STM)を活用した。通常、STMで有用なデータを得るためには、原子レベルで平坦な表面が必要である。しかし、多結晶体のLiCoO2は表面に凹凸があるため、LiCoO2表面を調べる際にはこの点が問題となる。そこで、研究チームは単結晶に着目し、リチウム含有量を系統的に変化させる手法を開発した。そして、超高真空条件下でこの結晶を劈(へき)開することによって、不純物のない平滑な表面層を得ることに成功した。

研究チームがSTM観察を行ったところ、正極表面にいくつかの原子レベルでの模様が観察された(図参照)。リチウムイオンが正極表面に存在する場合、ばらばらに分布するより、三角格子を組む傾向があることが明らかになった。また、STM探針を使ってリチウムイオンを動かすことにも成功した。酸化コバルト層が表面に現れた領域では、秩序ある模様を示す部分と無秩序な模様を示す部分が確認され、それぞれ金属的、絶縁体的であることがわかった。

研究チームは、STMの結果と量子化学シミュレーションの結果を比較することによって、このような模様はリチウムイオン濃度の不均一性とリチウムイオンの配列の仕方によって引き起こされることを明らかにした。「こうした配列パターンは、結晶内のリチウムの拡散と密接に関係しています」と岩谷助教は言う。「これらの過程を詳細に理解することにより、リチウムイオン電池の高容量化と充電時間の短縮につながるでしょう」。

岩谷助教は、今回の発見は新しい原子スケールデバイスの開発にも役立つかもしれない、と指摘する。「おそらく、表面のリチウムイオンをSTM探針で1個ずつ移動できるので、その配列パターンを制御することによって、ナノスケールで表面電子状態を調節することが可能になるでしょう。この方法で超小型電子回路を作製できるかもしれません」。

References

  1. Iwaya, K., Ogawa, T., Minato, T., Miyoshi, K., Takeuchi, J., Kuwabara, A., Moriwake, H., Kim, Y. & Hitosugi, T. Impact of lithium-ion ordering on surface electronic states of LixCoO2Physical Review Letters 111, 126104 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。