スピントロニクス: 自然の対称性を利用する

2013年11月25日

さまざまな基本対称性をもつスズテルルは、トポロジカル状態の研究に理想的な材料である

トポロジカルクリスタル絶縁体であるスズテルル(SnTe)の表面の電子状態(ピンク色)は、内部(黄色:SnまたはPb、緑色:Te)の電子状態とは異なっている。結晶中の鉛(Pb)の含有量が増えると(左から右へ)、内部の性質が反転し、この表面状態は消失する。
トポロジカルクリスタル絶縁体であるスズテルル(SnTe)の表面の電子状態(ピンク色)は、内部(黄色:SnまたはPb、緑色:Te)の電子状態とは異なっている。結晶中の鉛(Pb)の含有量が増えると(左から右へ)、内部の性質が反転し、この表面状態は消失する。

参考文献1より複製 © 2013 American Physical Society

対称性は、分子や原子結晶の性質から宇宙の誕生まで、幅広い事象を説明するために考慮しなければならない重要な概念である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは、大阪大学の共同研究者らとともに、スズテルル(SnTe)という材料がその結晶の対称性のおかげで、さまざまな電子状態を作り出すことを示した1,2。 

スズテルルは、市販の赤外光検出器に応用されるような従来型の半導体である。スズテルルの結晶構造には鏡面対称性がある(鏡映操作によって変化しない)ため、その表面は不純物などの影響があっても伝導性を保つことができる。これは「鏡映対称性によりトポロジカルに保護されている」といわれる電子状態(トポロジカル状態)で、このような性質をもつ結晶はトポロジカルクリスタル絶縁体と呼ばれる。

研究チームのメンバーである相馬清吾助教は、「トポロジカル状態の実用上のメリットの一つとして、材料の強固な電気伝導性が挙げられます」と説明する。「通常、導電性材料のサイズを小さくしていくと、ある時点で電子が動けなくなり、その材料は絶縁体になります。電子デバイスの小型化を進める際には、これが真の限界になります。ところが、トポロジカルに保護された材料は強固な伝導性を持つので、そのような限界を克服できる可能性があるのです」。 

スズテルルのトポロジカル状態は、結晶の原子組成を変えることによって制御できる。相馬助教らはスズテルルのスズ(Sn)の一部を鉛(Pb)に置き換えていき、鉛含有量が75%以上になるとトポロジカル状態が消失することを発見した1(図参照)。 

研究チームは、トポロジカル状態を壊すだけでなく、変化させることもできることを見いだした。スズテルルのスズのごく一部を鉛ではなくインジウム(In)に置き換えたところ、サンプルは低温で超伝導体に変化した。こうして得られたSn1-xInxTe は、原子置換後の結晶の対称性のおかげで、珍しいタイプのトポロジカル超伝導体となった2。興味深いことに、トポロジカル超伝導体は、マヨラナフェルミオン(マヨラナ粒子)という風変わりな粒子を含むことが予測されている。自身が反粒子でもあるマヨラナ粒子はユニークな特性を持ち、トポロジカル状態としての安定性も持つため、エレクトロニクスへの応用が大いに期待されている。 

今回、原子置換により対称性とトポロジカル状態を制御できることが明らかになったことで、マヨラナ粒子の存在に関する研究を進めるなどの新しい可能性が見えてきた、と相馬助教は指摘する。「今後の可能性として面白いのは、デバイス内にスズテルル/鉛テルルの薄層を形成することです。トポロジカル状態は、表面だけでなく、トポロジカル材料と通常の材料との界面にも生じうるので、2つの層の間にトポロジカル状態を形成させることができるでしょう」。

References

  1. Tanaka, Y., Sato, T., Nakayama, K., Souma, S., Takahashi, T., Ren, Z., Novak, M., Segawa, K. & Ando, Y. Tunability of the k-space location of the Dirac cones in the topological crystalline insulator Pb1−xSnxTe. Physical Review B 87, 155105 (2013). | article

  2. Sato, T., Tanaka, Y., Nakayama, K., Souma, S., Takahashi, T., Sasaki, S., Ren, Z., Taskin, A. A., Segawa, K. & Ando, Y. Fermiology of the strongly spin-orbit coupled superconductor Sn1−xInxTe: Implications for topological superconductivity. Physical Review Letters 110, 206804 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。