バイオマテリアル: 細胞を整列させる

2013年10月28日

柔軟な人工細胞外マトリックスが再生医療の新しい手法に道を拓く

高分子ナノ薄膜上で集合した分化筋細胞(青色および緑色)。挿入図は、微細パターンを形成した自己支持性ナノ薄膜(1 cm2)を示す。
高分子ナノ薄膜上で集合した分化筋細胞(青色および緑色)。挿入図は、微細パターンを形成した自己支持性ナノ薄膜(1 cm2)を示す。

© 2013 American Chemical Society(参考文献1)の許可を得て複製。

細胞の秩序正しい成長と分化を促す支持体となる生体材料は、組織工学や組織修復など再生医療の実現を左右する重要な要素である。生体内で細胞の組織化をつかさどっているのは細胞外マトリックスだが、この構造的・生物学的特性を再現することはきわめて難しい。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の藤枝俊宣助手(現・早稲田大学理工学術院助教)およびAli Khademhosseini主任研究者は、国内、韓国、米国の共同研究者とともに、細胞外マトリックス固有の能力を模して細胞を誘導する、非常に薄い自己支持性高分子膜を開発した。この「ナノ薄膜」は、天然の組織に似たナノスケールおよびマイクロスケールの特徴を示す1

これまでにも、ハイドロゲルやエラストマーをはじめとする多くの合成細胞外マトリックスが開発されてきた。しかし、天然の細胞外マトリックスとは異なり、こうした合成細胞外マトリックスの内部には細胞を高密度に配置するためのスペースが十分に確保しにくく、作製した組織を階層的に集合させて複雑な組織構造を形成することが困難であった。

今回、研究チームは微細加工技術を用いて、細胞接着ドメインを含むナノメートルサイズの高分子繊維からナノ薄膜を作製し、組織基底膜(細胞の足場となる極薄のシート状構造物)を再現することに成功した。 研究者らはまず、犠牲高分子層をあらかじめコートしておいたガラス表面上に、非常に薄いポリスチレン膜を形成した。次に、微細な溝が刻まれたスタンプを用いて、ポリスチレン膜の表面にフィブロネクチン-カーボンナノチューブ複合体でできた微細パターンを「印刷」し、細胞が並んで接着できるように膜表面を機能化した。そして、細胞培養を行った後、犠牲高分子層を溶かして、細胞パターンが形成されたナノ薄膜を剥がしとった。

細胞接着挙動を評価することで、こうした微細パターンが、ナノ薄膜上での筋前駆細胞(筋芽細胞)の高密度な整列を促すことが明らかになった。さらに、ナノチューブ繊維を用いたことで、細胞の伸張と分化が促進され、機能できる筋原線維が形成された。「これらの結果から、私たちが作製したナノ薄膜の表面は細胞-材料間の相互作用を研究するための有用なプラットフォームとなることがわかります」と藤枝助手は言う。

研究者らはポリスチレン濃度を調節することによって、数十から数百ナノメートルのさまざまな厚さの薄膜を調製することができた。また、薄膜の機械的特性の膜厚依存性を調べたところ、この自己支持性薄膜が非常に柔軟であるだけでなく、膜が薄くなるほど柔軟性が高くなることが明らかになった。こうしたユニークな特性を利用して、大量の筋芽細胞でコートした薄膜を柔らかいシリコーンチューブに巻きつけたところ、細胞を損傷することなくチューブ状の生体組織を再現し、ナノ薄膜を複雑な組織構造の足場として利用できる可能性が示された。

研究チームは、現在、これらの知見をフレキシブル・バイオデバイスの開発や組織再生に応用する方法を検討している。「この系は血管や腸管を模した組織の作製に役立つでしょう。また、ラボ・オン・チップとしてさまざまな薬剤や毒性化学物質に対する組織の応答を調べるのにも有用でしょう」と藤枝助手は話す。

References

  1. Fujie, T., Ahadian, S., Liu, H., Chang, H., Ostrovidov, S., Wu, H., Bae, H., Nakajima, K., Kaji, H. & Khademhosseini, A. Engineered nanomembranes for directing cellular organization toward flexible biodevices. Nano Letters 13, 3185–3192 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。