リチウムイオン電池: ナノファブリケーションのための原子衝突解析

2013年09月30日

レーザーを用いてリチウムイオン2次電池材料薄膜を合成する際に、原子の衝突が重要な役割を果たすことが、材料科学と数学との連携によって明らかになった

リチウムイオン2次電池材料の薄膜作製に関する数学と材料科学の研究結果。酸素分圧10-2 torrで5マイクロ秒後のリチウム原子拡散の空間分布(背景)に、酸素分圧10-6 torrにおけるリチウム原子の散乱の様子をシミュレーションしたもの(黒線)を重ねている。
リチウムイオン2次電池材料の薄膜作製に関する数学と材料科学の研究結果。酸素分圧10-2 torrで5マイクロ秒後のリチウム原子拡散の空間分布(背景)に、酸素分圧10-6 torrにおけるリチウム原子の散乱の様子をシミュレーションしたもの(黒線)を重ねている。

参考文献1(© 2013 American Physical Society)より改変

高性能リチウムイオン電池の開発は材料科学における重要研究課題のひとつであり、高品質なリチウム金属酸化物薄膜の作製は、この目標を達成するための一歩となる。パルスレーザー堆積法(PLD)はこのような薄膜を合成する有望な方法であり、リチウム含有原材料に強力なパルスレーザー光を照射して原子を気化させ、生じたプラズマ状の原子を基板上に堆積させることによって、ナノメートルの厚さの高品質な薄膜を得ることができる。

しかし、リチウムを含む金属酸化物膜を堆積させる場合、最終的に得られる薄膜の組成が原材料と異なることが多く、目的とする材料の高品質薄膜を合成するのは容易ではない。薄膜合成時のこうした「非化学量論的」挙動は、リチウム原子の揮発性と化学反応性の高さに起因すると考えられてきたが、その原因は不明なままであった。東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のDaniel Packwood助教、白木将講師、一杉太郎准教授の研究グループ1は、堆積プロセス中の高エネルギー原子の衝突を記述するモデルを新たに構築して、薄膜合成の機構を解明し、リチウムイオン電池材料薄膜開発への道を拓いた。

研究グループは、薄膜作製において、PLDチャンバーに導入する酸素ガスの圧力を高くすると、薄膜中のリチウムの割合が減少することに着目した。そこで、原子の散乱プロセスを古典粒子同士の衝突として扱う理論モデルを構築した。また、酸素ガスの圧力を変化させてマンガン酸リチウム薄膜を合成し、得られた薄膜中のリチウムとマンガンの原子数比を調べると同時に、シミュレーション結果との比較を行った(図参照)。その結果、酸素ガスによってリチウム原子が強く散乱され、より広範囲にリチウムが拡散することを明らかにした。これに対し、リチウム原子より重いマンガン原子では、酸素ガスとの衝突により散乱はされるものその拡散は非常に小さいことがわかった。研究グループによると、導入する酸素ガスの圧力があるしきい値を超えると、薄膜中の軽い原子のリチウムが常に欠損することを確認できたという。したがって、高品質な薄膜を合成するためには、リチウムの欠損を考慮して原材料の組成を選ぶ必要があることも明確になった。

「このモデルがうまく機能するのは、原子が衝突する際に生じる2粒子間のエネルギー交換を正しく記述しているからです」とPackwood助教は言う。それにより、高エネルギー原子の熱平衡過程を明らかにし、実験的にも有効なリチウム原子の空間分布を予測することができる。研究チームは、今回の研究結果が高品質な薄膜作製、さらには構造を規定した電極界面の構築に役立つことを期待している。これを利用すれば、界面の電気抵抗を減らし、リチウムイオン電池の充放電特性を向上させることができるだろう。

References

  1. Packwood, D. M., Shiraki, S. & Hitosugi, T. Effects of atomic collisions on the stoichiometry of thin films prepared by pulsed laser deposition. Physical Review Letters 111, 036101 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。