スピントロニクス: スピン流を定量的に評価する

2013年09月30日

スピン流の詳細な定量的解析によって、スピントロニクスデバイスにおいて見落とされがちな効果の重要性が明らかになった

直流電圧を測定するために考案されたシステム。
直流電圧を測定するために考案されたシステム。

参考文献1より複製。 © 2013 L. Chen et al.

エレクトロニクスは電子の電荷を利用するが、スピントロニクスの分野では電荷に加えて電子のスピンも利用することができる。スピントロニクスはデバイスの低消費電力化・小型化を促すと大いに期待されているが、それを実現するためには非磁性材料にスピン流を効率的に導入するステップが重要になる。 

固体中では電子のスピンと運動量が結合しており、電荷の流れ(電流)とスピンの流れ(スピン流)を相互に変換することができる。これをスピン・ホール効果という。「正スピン・ホール効果」が電流をスピン流に変換するのに対して、「逆スピン・ホール効果」はスピン流を電流に変換する。金属でも半導体でも両方の効果が観測されている。 

逆スピン・ホール効果はスピン流の測定を通して確認されることが多く、スピントロニクス材料の評価において非常に重要な現象である。しかし、材料中にはそのほかの効果を起源とする電流も発生している。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のLin Chen(陳林)助手、松倉文礼教授、大野英男教授らの定量的な研究により、スピン流を調べる際には、逆スピン・ホール効果だけでなく電流磁気効果も考慮に入れなければならないことが明確に示された1。 

電流磁気効果は、電流を流す導電体や半導体材料に外部磁場を印加したときに観測される。この効果の存在を実証するため、研究者らは、p型ガリウムヒ素p-GaAs半導体層上に強磁性のガリウムマンガンヒ素(Ga,Mn)As層を堆積したサンプルを作製した。 

研究者らは(Ga,Mn)As中にスピン流を発生させ、これを「スピン・ポンピング」という方法でp-GaAs層に注入した。次に、p-GaAs層に生じた直流電圧を測定した。今回の研究は強磁性共鳴(FMR)条件のもとで行われたため、強磁性層の磁化ダイナミクスをFMR分光法で同時に評価することができた。研究チームが特に重視したのは、外部磁場の大きさと角度の影響だった。 

こうして得られた結果を解析したところ、強磁性(Ga,Mn)As層において、予想されていた逆スピン・ホール効果に加えて、「プレナー・ホール効果」という電流磁気現象も生じていることが明らかになった。「逆スピン・ホール効果とプレナー・ホール効果では、電気的に検出したFMRスペクトル上に同じ対称性と幅の線が現れるため、両者を区別することは困難です。違いは角度依存性にあります」と研究者らは説明する。「研究結果は、直流電圧の起源を分離することが非常に重要であることを示しています」。 

次の課題は、大きな電流磁気効果を示す(Ga,Mn)Asのような材料以外にも、この手法が適用できることを示すことである。「この手法は、スピン流の物理的性質に関する理解を深め、新しい機能性スピントロニクスデバイスを開発するのに役立つはずです」と松倉教授は言う。

References

  1. Chen, L., Matsukura, F. & Ohno, H. Direct-current voltages in (Ga,Mn)As structures induced by ferromagnetic resonance. Nature Communications 4, 2055 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。