分子エレクトロニクス: 正しい位置に配置する

2013年07月29日

分子エレクトロニクスデバイスの性能を最適化するには、金属電極と有機分子の電子状態を精密に調節する必要がある

磁性ニッケル電極の間にC60分子(中央の赤い球)を組み込んだ分子エレクトロニクスデバイスの構成。NとSは、デバイスの磁性電極のN極とS極を表す。
磁性ニッケル電極の間にC60分子(中央の赤い球)を組み込んだ分子エレクトロニクスデバイスの構成。NとSは、デバイスの磁性電極のN極とS極を表す。

© 2013 American Chemical Society(参考文献1)の許可を得て複製。

コンピューターや電子回路は、シリコンをはじめとする無機材料をベースに構成されているのに対し、生物体は有機分子を中心にして展開されている。このように、現代のデバイスと生物体は根本的に異なる構成要素から成り立っているが、研究者たちは近年、これらを組み合わせて複雑な高性能デバイスを作製しようと努力を重ねている。

この種のデバイスの例として特に興味深いのが、電子の磁性(スピン)を利用するスピントロニクス分野で数多くの応用が考えられる分子エレクトロニクスデバイスである。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の濱田幾太郎助教(現・物質・材料研究機構所属)、塚田捷特任教授および東京大学の共同研究者らは、金属電極と動作条件を適切に選択することが、このデバイスの電子的性能を向上させるのに重要であることを示した。

「単一分子からなるスピントロニクスデバイスが実現すれば、センシングデバイスや論理(計算)デバイス、情報記憶デバイスの高機能化が期待できます」と濱田助教は言う。けれどもこれまでのところ、実用化できるほど強いスピン効果は得られていない。

分子エレクトロニクスデバイスの性能は、主に有機分子によって決まると考えられるが、分子と隣接する金属電極との間のコンタクトも重要な役割を果たす。研究チームはまず、2つの強磁性ニッケル電極を持つデバイスを作製した。電極間の距離はわずか1ナノメートルで、これは電極間にフラーレン分子C60を1個だけ組み込める距離である(図参照)。研究者らは、電極間の距離を正確に調節するために、エレクトロマイクグレーション法を用いてニッケル原子を電極から移動させ、徐々に電極間の隙間を縮めていった。

次に、さまざまな強さの外部磁場を印加したときの電気抵抗変化(磁気抵抗効果として知られる特性)を測定することによって、電極の電子準位がスピントロニクスデバイスの特性に及ぼす影響を調べた。そして、印加電圧を変えることでデバイスを調節し、最大で-80%という抵抗変化を観測することができた。理論計算から、こうした異常な負の値が観測されたのは、ニッケル–C60界面での軌道混成が原因となっている可能性があることがわかった。また、磁気抵抗効果が最大になるのは、電圧印加によりC60分子とニッケル電極の電子スピンが完全に揃ったときであることもわかった。

これらの知見から、分子エレクトロニクスデバイスにおいては金属電極と有機分子を適切に組み合わせることが重要であり、個々の要素よりも全体を見るべきであることが明らかになった。濱田助教は、このアプローチは幅広い関連デバイスに適用できると確信している。「今回構築した理論を利用して、別の分子と電極からなるスピントロニクスデバイスの特性も予測できると考えています」。

References

  1. Yoshida, K., Hamada, I., Sakata, I., Umeno, A., Tsukada, M. & Hirakawa, K. Gate-tunable large negative tunnel magnetoresistance in Ni−C60−Ni single molecule transistors. Nano Letters 13, 481−485 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。