顕微鏡法: 原子間力顕微鏡でゴムを調べる

2013年05月27日

画期的な原子間力顕微鏡法が開発され、複雑な構造をもつゴム表面の力学的特性がナノスケールで解明された

新しい原子間力顕微鏡法を用いて作成した、ゴム表面における力学的損失の「マップ」。非相溶性ゴムの「海-島」構造が明らかになっている。こうしたマップをさまざまな周波数で作成することにより、表面上のナノスケールの特徴を詳しく視覚化できる。
新しい原子間力顕微鏡法を用いて作成した、ゴム表面における力学的損失の「マップ」。非相溶性ゴムの「海-島」構造が明らかになっている。こうしたマップをさまざまな周波数で作成することにより、表面上のナノスケールの特徴を詳しく視覚化できる。

© 2013 American Chemical Society(参考文献1)の許可を得て複製。

ゴムは、高性能デバイスからごくふつうのタイヤまで、幅広い用途をもつ重要な材料である。しかし、異種ゴム同士のブレンドや、「フィラー」と呼ばれるカーボン粒子が複合される結果として非常に複雑な構造をもつため、その特性を評価するのは容易ではない。これまで多くの研究者は、微小なシリコンプローブを用いて試料表面の物理的特性を測定することができる「原子間力顕微鏡法(AFM)」という手法を用いて、不均質なゴムの構造を詳細に調べようと試みてきた。しかし、従来のAFM装置では、幅広い周波数でプローブを高速振動させることが難しいため、ゴムの挙動を十分に理解することができなかった。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の中嶋健准教授らは、圧電性結晶を使ったアクチュエーターをAFM装置に組み込んでシステムの振動機能を向上させることにより、この問題を解決した1。試料表面の3次元走査を可能にする通常のAFMスキャナーは大きく動くように設計されているため、AFM装置のプローブを限られた周波数範囲でしか振動させることができない。そこで研究チームは、AFMスキャナーの上に、小型で、軽量で、共振周波数が高い圧電アクチュエーターを追加することで、最高で毎秒2万回も試料とプローブを同時に振動させることを可能にした。

このAFM装置をテストするため、研究チームはイソプレンゴムとスチレン-ブタジエンゴムの測定を行った。まず、力をかけられたゴムがどのように変形するかを記録することによって、接触力学的パラメーターを決定した。次に、ゴム表面でのAFM信号の振幅と位相を、硬いマイカ表面の信号と比較した。そして、さまざまな周波数で測定を繰り返すことによって、ゴムの動的変形を表す「粘弾性」パラメーターを得た。

研究チームは、AFMの走査機能を利用して、混合ゴム表面の力学的損失を表す2次元「マップ」を作成した(図参照)。このマップから、ナノスケールのイソプレンゴム領域の「島」が、スチレン-ブタジエンゴム領域の「海」に囲まれている様子が明らかになった。重要なのは、ある範囲の周波数で走査しないと、ゴムの非相溶性が明確にならないことである。「周波数に依存する変形を測定できるこの装置があれば、時間のかかる現行の評価試験の多くが不要になります」と中嶋准教授は説明する。「粘弾性材料の場合、周波数と温度に相関があると考えられています。そのため、測定できる周波数帯域が狭いと、複数の温度で測定を行う必要があります。ところが私たちの装置を使えば、温度を固定して、広い周波数帯域で測定することができるのです」。

中嶋准教授によると、このAFM装置で利用できる周波数帯域は、巨視的試験で用いる周波数帯域を包含しているという。つまり、大きいスケールとナノスケールの特性を直接比較することができるのだ。こうした比較は多成分系の理解に不可欠である。「私たちの手法を用いれば、高い分解能で各成分の粘弾性を視覚化することができ、将来の材料設計のために貴重なフィードバックを得ることができるのです」と中嶋准教授は話す。

References

  1. Igarashi, T., Fujinami, S., Nishi, T., Asao, N. & Nakajima, K. Nanorheological mapping of rubbers by atomic force microscopy. Macromolecules 46, 1916–1922 (2013). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。