酸化物材料: 隠れた層

2012年07月30日

単純でありふれた3次元バルク酸化物中にトラップされた電荷が2次元シート状に拘束されることが、新しい計算法によって予測された

酸化ハフニウムの結晶格子内の正電荷(青色)は、最初は3次元に分散している(上)。この正電荷が結晶格子をわずかにひずませ、このひずみが正電荷を2次元シート状に局在化させる(下)。
酸化ハフニウムの結晶格子内の正電荷(青色)は、最初は3次元に分散している(上)。この正電荷が結晶格子をわずかにひずませ、このひずみが正電荷を2次元シート状に局在化させる(下)。
 

© 2012 APS

酸化物材料における電荷トラッピング現象は、さまざまな技術に欠かすことのできない重要な特性である。たとえば、トランジスターのゲート電極の絶縁に用いられる二酸化ハフニウムは、バルク中に電荷がトラップされると機能が低下してくる。また、触媒として広く用いられる二酸化ジルコニウムの活性は、トラップされた電荷の量に依存している。しかし、このような酸化物における電荷トラッピングの性質を正確に予測するという課題は、依然として未解決である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のKeith McKenna元研究員(現・英国ヨーク大学講師)とAlexander Shluger主任研究者は、英国および米国の共同研究者らとともに新しい計算法を開発し、酸化物における電荷局在(つまり電荷トラッピング)の意外な側面を予測した1

通常、電荷トラッピングの計算には密度汎関数理論(DFT)が利用される。広く用いられているDFTでは電子が自分自身と静電的に相互作用する形になっているが、これは物理的に正しくない。この「自己相互作用誤差」の存在が、材料中の電荷トラッピングの予測を不正確にする。研究チームは非線形性を相殺して自己相互作用補正を施した密度汎関数理論を用いて計算を行った。そこで得られた新しい洞察から、酸化ハフニウムと酸化ジルコニウムの中で電荷が局在化するしくみに関して、これまでにない新しい見方ができるようになった。

これらの材料は通常3次元バルク結晶とみなされているが、研究者らの計算によって、材料中の電荷は二次元的に拘束されているかのように振る舞うことが予測された。これは、それぞれの材料の結晶構造が、酸素原子が3個または4個の金属原子に配位(結合)した層を交互に繰り返しているからである。材料中で正電荷が生じると、周りの結晶格子にひずみが生じて格子構造をすみやかに安定させる(図参照)。この格子ひずみをまとった正電荷はポーラロンと呼ばれる。

研究者らは、ポーラロンが3配位酸素原子を持つ酸化物層にとどまる傾向があることを見いだした。このような2次元的挙動は特殊な物理的特性を伴うため、これまでもさかんに研究されてきたが、通常は3種類以上の原子からなる複雑な酸化物や材料の界面でしか観測されていなかった。今回、比較的単純な2成分酸化物でこうした挙動が観測されたことは予想外であり、関連する特異な物理的特性の新しい研究法につながることが期待される。「この理論的手法自体も重要ですが、この手法を用いて得られた私たちの予測が呼び水となって、2成分酸化物の相関ダイナミクスや正電荷の相互作用といった新しい研究が始まるかもしれません」とMcKenna講師は言う。

References

  1. McKenna, K. P., Wolf, M. J., Shluger, A. L., Lany, S. & Zunger, A. Two-Dimensional Polaronic Behavior in the Binary Oxides m-HfO2 and m-ZrO2. Physical Review Letters 108, 116403-1–116403-5 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。