ポリマー物性: 巨大分子表面の地図を作る

2012年05月28日

ポリマー材料のマクロ物性とナノ構造を繋ぐ鍵は、ナノスケール表面物性解析に求められる

トリブロック共重合体サンプルの粘弾特性マップ
トリブロック共重合体サンプルの粘弾特性マップ

© 2011 ACS

ポリマー(繰り返し構造単位からなる巨大分子)材料の表面には、粘着、ぬれ、摩擦といった特殊な物理特性がある。ポリマーの表面物性は、バルク物性とは全く違っている場合がある上、ポリマーの分子構造と関連づけることも難しい。合成技術の進歩により、ポリマーの分子構造をかなり制御できるようになったものの、特定のデバイスや用途に最適なポリマーを見いだすことは依然として困難である。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の中嶋健准教授、王東(Dong Wang)助教および共同研究者らは、原子間力顕微鏡(AFM)法を用いてポリマー薄膜の表面物性をマッピングすることに成功した。

中嶋准教授は、物性マッピングの考え方を簡単な例で説明する。「ポリマーの表面にカラーインクを塗ることを考えてみてください。粘着性の低い部分は、ほかの部分に比べて色が落ちやすいはずです」。ポリマーが有する粘弾性や粘着性などの特性は、自動車製造をはじめとするさまざまな分野に応用できる可能性がある。「粘着性や粘弾性が重視されるタイヤ用ポリマー材料の生産に、今回の研究が直接応用できることは明らかです。私たちは実際に、日本のタイヤ会社数社と共同研究を進めています」と中嶋准教授は言う。

これまで、材料の粘着力や粘弾性挙動の評価には、引張応力やせん断応力の測定が用いられてきた。しかし、これらはマクロスケールの評価法であり、材料の特性の平均値しか得られない。これに対してAFMは、柔軟なレバーに取り付けた原子レベルの鋭さの針を用いて、ナノスケールの表面物性を直接調べることができる。研究チームは今回、中嶋准教授が「ナノマッサージ」と表現する接触モードのAFMを使用した。研究対象のポリマーの分子構造は、ポリ(エチレン-co-ブチレン)ブロックが2つのポリ(スチレン)ブロックで挟まれたトリブロック共重合体からなる。バルク中のポリマー分子は均一に混ざりあってはおらず、同種のポリマーの「ブロック」がまとまるように配列している。表面では、この様子が多数の小さなポリマーの「アイランド」のパターンとして見られる(画像参照)。「私たちのAFM技術は、場所によって表面物性が変化する様子を示す地図を作ることを可能にするのです」と中嶋准教授は説明する。

この技術は、組成によって機械的特性が異なる、ほかのタイプのブロック共重合体表面の機械的特性マッピングにも使える見込みがある。「将来は、バルク金属ガラスや生体材料などの表面特性も評価したいと思っています」と中嶋准教授は言う。「最終的には、ポリマーのマクロスケール物性とナノスケールでの構造との関係を明らかにして、新しい高性能材料を評価・設計していきたいと考えています」。

References

  1. Wang, D., Liang, X-B., Liu, Y-H., Fujinami, S., Nishi, T. & Nakajima, K. Characterization of surface viscoelasticity and energy dissipation in a polymer film by atomic force microscopy. Macromolecules 44, 8693–8697 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

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