バルク金属ガラス: 意外なハイブリッド構造

2012年05月28日

実験と理論を組み合わせた研究によって、金属-半金属系バルク金属ガラスがハイブリッド構造をとることが明らかになり、これまでの観測結果の矛盾が解決された

バルク金属ガラスであるパラジウム-ニッケル-リンの原子構造。リン(ピンク)、ニッケル(緑)、規則的に配列したパラジウム(青)、規則性のないパラジウム(赤)から構成される。
バルク金属ガラスであるパラジウム-ニッケル-リンの原子構造。リン(ピンク)、ニッケル(緑)、規則的に配列したパラジウム(青)、規則性のないパラジウム(赤)から構成される。

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並はずれた弾性と高い耐腐食・耐摩耗性を併せ持つバルク金属ガラス(BMG)は、機械的応用において非常に需要が高い。また、結晶性金属よりも熱伝導性が低いので、熱管理に応用できる可能性もある。BMGは、金属-金属系ガラスと金属-半金属系ガラスの2つのグループに大きく分類することができる。しかし、金属-半金属系ガラスの原子構造に関しては未だに不明な点が数多く残されており、この分野の専門家の間で議論が続いている。

金属元素だけからなる金属-金属系ガラスは、原子充填率が最大になるような構造をとる。しかし、金属-半金属系ガラスの場合、リン、ホウ素、ケイ素、炭素といった半金属原子も含まれており、こうした原子が共有結合や配位結合を通して電荷を飽和しようとするため、状況ははるかに複雑になる。これらの結合の数、方向、長さは一定の規則に従っているため、金属-半金属系ガラスでは原子の高密度充填が妨げられることになるからだ。

実際、金属-半金属系ガラスの構造については相反する実験観測結果が得られており、どうすれば両者の間に折り合いをつけることができるのか、よくわかっていなかった。しかしこのたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のMingwei Chen(陳明偉)教授、Pengfei Guan助手および共同研究者らは、その謎を解明した可能性がある。彼らは、金属-半金属BMGモデルであるパラジウム-ニッケル-リンの構造を、共有結合を介する構造と二十面体高密度充填構造とを組み合わせたハイブリッド構造で説明した1

「パラジウム-ニッケル-リンは、文献に最初に報告されたバルク金属ガラスであり、今のところ、三成分系金属-半金属合金の中で最高のガラス形成能を誇っています」とChen教授は説明する。したがって、研究者らがパラジウム-ニッケル-リンの構造解明に注目したのはごく自然の選択だった。研究チームは、X線回折実験と第一原理分子動力学シミュレーションの両方により解析を行った。その結果、リンはパラジウムとニッケルの両方に配位しており、パラジウムとニッケルの間に金属結合が生じていることが示唆された。研究者らは、パラジウム-ニッケル-リンが2種類のクラスターが完全に相互接続したものから構成されていることを提案した。一つは中心にリン原子を持つ三面冠三角柱(三角プリズム)であり、もう一方は中心にニッケルを持つ高密度充填二十面体構造である。

このハイブリッド構造は、リン原子の電荷飽和の必要性と金属原子の高密度充填の必要性をともに満たしており、この化合物で実現可能な最低のエネルギーを示すことが明らかとなった。したがって、比較的不規則であるにもかかわらず、安定した構造になっていると考えられる。

これらの研究結果は、パラジウム-ニッケル-リン合金のよく知られたガラス形成能を説明できるだけでなく、金属-半金属ガラスの形成を、より広く理解するうえでも重要である。「これは、金属-半金属ガラスに普遍的な構造モデルなのかもしれません」とChen教授は言う。「私たちはすでに、これとは別の合金系も同じ充填様式を持つことを明らかにしています」。

References

  1. Guan, P. F., Fujita, T., Hirata, A., Liu, Y. H. & Chen, M. W. Structural origins of the excellent glass-forming ability of Pd40Ni40P20. Physical Review Letters 108, 175501 (2012). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。