酸化グラフェン: 還元制御で性能を向上させる

2012年04月30日

酸化グラフェンの物理化学的特性を制御すると細胞吸着能を最適化でき、生物学的応用へ興味深い見通しが得られた

酸化グラフェンと細胞タンパク質の非共有結合性相互作用の概略図
酸化グラフェンと細胞タンパク質の非共有結合性相互作用の概略図
 

© 2011 Wiley-VCH

グラフェン(炭素原子がハニカム格子状に並んだ、原子1層の厚みのシート)や、その誘導体である酸化グラフェンなどのグラフェン系材料は、並はずれた物理的特性を示すため、新しい機能を持つ高効率電子デバイスの作製に取り組む科学者や技術者の興味をかき立ててきた。今日では、グラフェン系材料をエレクトロニクス以外の分野に応用できる可能性も示唆されている。東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のHaixin Changポスドク研究員、Hongkai Wu教授らと北京と香港の研究機関の共同研究者らは、透明性、柔軟性、電気伝導性を併せ持つグラフェンは、生物学や生物医学に幅広く応用できると考えている。

グラフェンや酸化グラフェンを生体内で使用できるかどうかについては、その毒性がまだ明らかになっていないなどの理由から、現時点では不明である。しかし、生体外でタンパク質や細胞の解析プラットフォームとして利用できる可能性がある。ただし、その応用を現実的に検討する前に、グラフェン系材料表面と細胞の複雑な相互作用をよく理解する必要がある。Wu教授らの研究チームは、ごくわずかの原子層からなる複数層酸化グラフェンに細胞を接着させる研究を行い、酸化グラフェン膜の性質を制御すると細胞の吸着能を最適化できることを実証した1

酸化グラフェンの表面特性を最も直接的に変える方法は、その還元状態を変化させることである。研究チームは、酸化グラフェン膜を加熱して酸素含有基を徐々に取り除いてゆく熱還元法を用いた。還元酸化グラフェン膜、90分間還元した酸化グラフェン膜、260分間還元した酸化グラフェン膜の3種類を用いて、さまざまな細胞挙動を調べた。

研究者らはまず、酸化グラフェン膜による各種タンパク質の吸着能を調べた。そして、90分かけて適度に還元した酸化グラフェンが、最高の吸着能を示すことを見いだした。この結果は、酸素含有量により、相反する複数の効果があると考えれば説明できる。つまり酸素は、タンパク質との水素結合を形成することによって酸化グラフェンの吸着能を増大させるが、その反面、静電的反発と疎水性への変化によって吸着能を低減させるのだ。

このほか、細胞接着、細胞増殖、細胞分化を評価するテストでも同様の傾向が観察され、いずれのテストでも、適度に還元された酸化グラフェンが最も優れているという結果になった。研究チームは、適度な還元が酸化グラフェンのタンパク質吸着能を強くするために、このような結果になったと考えている。

これらの実験結果により、生物学的応用への道が切り開かれるかもしれない。「今回の結果から、グラフェン系材料の還元状態を制御することにより、多様な方法で生物学的な応答を調節できるようになる可能性が見えてきました」とChang研究員は言う。

References

  1. Shi, X., Chang, H., Chen, S., Lai, C., Khademhosseini, A. & Wu, H. Regulating cellular behavior on few-layer reduced graphene oxide films with well-controlled reduction states. Advanced Functional Materials 22, 751–759 (2011). | article

     

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。