ナノクラスター: おきて破りの鉄鋼

2012年01月30日

強化型鋼中に存在するナノクラスターの原子イメージングによって、この材料が示す優れた強度と耐久性に関する理解を深めることができる

酸化物分散強化型(ODS)鋼中の酸化物ナノクラスターを図示したもの。ナノクラスター結晶構造中の欠陥が、鋼マトリックスとの親和性を高めて、この材料の優れた強度と耐久性をもたらしているのかもしれない。
酸化物分散強化型(ODS)鋼中の酸化物ナノクラスターを図示したもの。ナノクラスター結晶構造中の欠陥が、鋼マトリックスとの親和性を高めて、この材料の優れた強度と耐久性をもたらしているのかもしれない。
 

参考文献1(© 2011 M. W. Chen)より

2011年の東北地方太平洋沖地震が引き金となって発生した福島第一原子力発電所の事故などを受けて、原子力施設の安全性の向上が世界的に強く求められるようになっている。極めて過酷な環境や有毒な環境に耐えられる建造物の建材として、より強く、より耐久性の高い材料の探索が進められている。なかでも有望視されているのは、酸化物分散強化型(ODS)鋼である。ODS鋼は、鋼マトリックス中に微細なナノクラスターが分散した構造を持ち、放射線損傷や高温に対して並はずれた耐久性を示す。しかし、このナノクラスターの内部原子構造については、ほとんど知られていない。

東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のMingwei Chen(陳明偉)教授と平田秋彦助教らは、このたび、香港城市大学の共同研究者らとともに、最新の顕微鏡技術を駆使してODS鋼中に埋め込まれている直径4ナノメートル未満の酸化物ナノクラスターの原子構造を解析し(図参照)、興味深い知見を得た1

「私たちは、この酸化物ナノクラスターの原子構造を理解することが、ODS鋼研究の最重要課題であると気づきました」と陳教授は説明する。「ODS鋼が過酷な環境で驚異的な強さを発揮できるのは、これに埋め込まれているナノクラスターの結晶構造が重要な役割を担っているからなのです」。

研究者らは、球面収差補正装置を搭載した走査型透過電子顕微鏡を用いて、微細な酸化物ナノクラスター内の複雑な原子構造を約0.1ナノメートルの分解能で特定した。その際、障害になったのは、ODS鋼の磁性の強さだった。「鋼マトリックスが持つ磁性が、クラスターの画像化を困難にしていたのです」と陳教授は説明する。「磁性の影響を最低限に抑えるため、厚さ約5ナノメートルという非常に薄いサンプルを慎重に作製しました」。

この研究の結果で最も意外だったのは、ODS鋼中のナノクラスターが非常に多くの欠陥を含む岩塩(NaCl)型結晶構造をとっているにもかかわらず、高温で信じられないほど安定なことである。「これは、とても面白い現象です」と陳教授は言う。「熱力学的観点から、完全結晶構造については、全エネルギーが低い方が相は安定であることが知られています。 ところが、ODS鋼中のナノクラスターは、逆の性質を示しているように見えるのです」。

ODS鋼中には微細なナノクラスターと大きめのナノ粒子が存在しており、いずれも岩塩型の結晶構造をとっているが、両者には重要な違いがあることがデータから明らかになった。「粗大化した不安定なナノ粒子がほぼ完全な結晶構造をとっているのに対し、安定なナノクラスターは空孔の割合が高く、非常に欠陥が多いのです」と陳教授は説明する。

研究者らは、欠陥の多い構造がナノクラスターと鋼マトリックスとの親和性を促進することで、高温時や中性子照射時における材料全体の安定性を高めているのかもしれない、と考えている。陳教授らは今後、ほかのナノ構造を含む強化型鋼についても研究する予定である。

References

  1. Hirata, A., Fujita, T., Wen, Y. R., Schneibel, J. H., Liu, C. T., & Chen, M. W. Atomic structure of nanoclusters in oxide-dispersion-strengthened steels. Nature Materials doi: 10.1038/NMAT3150 (2011). | article

     

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。