触媒反応: 2つの金属が可能にすること

2011年11月28日

ナノポーラス・パラジウム-ニッケル合金が、燃料電池の触媒性能を向上させる

図1: ナノポーラス・パラジウム-ニッケル(np-PdNi)合金の走査電子顕微鏡像
図1: ナノポーラス・パラジウム-ニッケル(np-PdNi)合金の走査電子顕微鏡像

 

従来、燃料電池の触媒材料には白金系材料が好んで用いられてきたが、最近は重要な酸化・還元反応における電極触媒活性が高いパラジウム系材料(二元合金を含む)に注目が集まっている。ナノスケールの粒子状のパラジウム触媒は表面積が大きく、機械的・電気的特性が優れており、高い性能を示すことが期待できるためだ。

このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の陳明偉(Mingwei Chen)教授らは、上述の長所をいくつか兼ね備えたナノポーラス構造をもつバルク・パラジウム-ニッケル合金を作製し、リサイクルが容易なうえに低コスト・高性能を実現できる触媒を開発した1。研究者らは一連の電気化学的分析を行い、この新しいナノポーラス・パラジウム-ニッケル(np-PdNi)合金が、低分子の電極酸化反応および酸素還元反応の優れた触媒になることを実証した。

np-PdNi材料は、硫酸溶液中で二元金属合金Pd20Ni80の電気化学的脱合金化により作製される。その際、エッチング電位を制御して、元の合金からニッケルを部分的に浸出させた。np-PdNiでは結晶金属リガメントとナノポーラス孔は入り組んだ連続構造をとっており(図1)、その元素分布をX線光電子分光法とイオンエッチング技術を併用して調べたところ、金属リガメント内のニッケルの分布が深さとともに変化すること、すなわち、中心部はニッケル濃度が高く外側はパラジウム濃度が高いことが明らかになった。

メタノールやギ酸の電極酸化反応において、np-PdNiは純粋なナノポーラス・パラジウムや市販のナノ粒子状パラジウム-炭素(Pd–C)触媒よりも高い触媒活性を示した。また、np-PdNiの反応開始電位はナノポーラス・パラジウムよりも負側にシフトしており、電極酸化反応の速度が速いことが確認された。さらに、np-PdNi材料は電気化学的安定性にも優れていて、500サイクルのメタノール電極酸化の後でも、電極触媒活性は約8%しか低下しない。これは、市販のPd–C触媒よりも良好な結果である。

「酸素還元反応については、np-PdNiの現在の触媒性能は市販の白金触媒と同程度です。今後、np-PdNiの形態や組成をさらに最適化して触媒性能を向上させ、高価な白金触媒を超えられるようにする必要があります」と陳教授は言う。

np-PdNiの応用候補には商用燃料電池、水素センサー、ナノ構造電極など、環境に優しいさまざまなエネルギー装置が挙げられる。陳教授らは現在、脱合金化時の電位制御と合金前駆体の改良をさらに進めて、組成を微調整できる多様なナノポーラス材料の作製方法を研究している。

References

  1. Chen, L., Guo, H., Fujita, T., Hirata, A, Zhang, W., Inoue, A. & Chen, M. Nanoporous PdNi bimetallic catalyst with enhanced electrocatalytic performances for electro-oxidation and oxygen reduction reactions. Advanced Functional Materials 22, 4364-4370 (2011) | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。

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