超伝導体: 未来を担う

2011年09月26日

イオン液体を用いた画期的な超伝導体探索法によって、全く新しい超伝導体を発見できるかもしれない

図1: イオン液体の液滴をのせた電気二重層トランジスターの写真。KTaO3の超伝導を調べるために作製された。
図1: イオン液体の液滴をのせた電気二重層トランジスターの写真。KTaO3の超伝導を調べるために作製された。
 

Ref. 1 © 2011 M. Kawasaki

ちょうど100年前に超伝導が発見されて以来、新超伝導体の探索は、様々な新規化合物を合成し、極低温まで冷却して電気抵抗が消失するかどうかを調べるという方法で行われてきた。これに対して、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の川崎雅司連携教授らは、東京大学の研究者らと共同で、従来とは全く異なる手法を用いて既知の材料に多量の電荷を電界効果で注入する、という新しい超伝導体探索法を開発した1。研究者らはこの手法により、タンタル酸カリウム(KTaO3)という化合物が超伝導を示すことを発見した。

超伝導は、材料中の電子が対を形成し、結晶中の原子による散乱などの外的擾乱の影響を受けにくくなることによって起こる。ここで自由電子が重要な役割を担っていることを考えると、化学ドーピング法により高密度の自由電子を注入すれば、多くの材料が超伝導になると思われる。しかし、残念なことに、この方法で注入できる最大電荷量には限界がある。

川崎教授らが開発した新手法では、多量の電荷を蓄積できるイオン液体を用いたコンデンサーで電子を材料表面に注入する。材料を含む電気回路の表面にイオン液体を接触させると(図1)、材料-液体界面に電気二重層が形成され、電圧をかけると、電気二重層コンデンサーが充電される。研究者らは、温度を下げていくと、化合物(本研究の場合はKTaO3)が本来の絶縁状態から半導体、金属伝導体、最後に超伝導体へと変わっていくことを見いだした。

「私たちは、イオン液体を用いたこの方法でKTaO3に電子を注入し、従来法の約10倍の電荷密度を実現することができました」と川崎教授は言う。これまでKTaO3で超伝導が観察されたことはなく、今回、高い電荷密度を実現できたことで初めて、非常に低い温度ではあるが、超伝導が可能になったのである。したがって、この新手法は、これまで調べられていない材料にも超伝導を誘起できるという点で非常に意義がある。

川崎教授は、「私たちの手法には、化学ドーピングのような限界はありません。十分な量の電荷キャリアを注入すれば超伝導になりうる化合物で、まだ調べられていないものは数多くあります」と話す。KTaO3で超伝導が発見されたことは、それ自体が画期的だが、この発見に用いられた新手法は、これまでにない高い温度で超伝導を発見できる可能性を秘めている点で、さらに画期的なブレークスルーなのである。

References

  1. Ueno, K. Nakamura, S., Shimotani, H., Yuan, H. T., Kimura, N., Nojima, T., Aoki, H., Iwasa, Y. & Kawasaki, M. Discovery of superconductivity in KTaO3 by electrostatic carrier doping. Nature Nanotechnology 6, 408–412 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての情報及びデータは同著者から提供されたものです。

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