スピンエレクトロニクス: 磁性を制御する

2011年08月29日

室温で磁性をスイッチングできる半導体が電子デバイスを進化させる

図1: コバルト添加二酸化チタン半導体では、電荷によって強磁性が誘起される。
図1: コバルト添加二酸化チタン半導体では、電荷によって強磁性が誘起される。

 

従来のトランジスターに充電するのと同じような方法で、半導体の磁性、すなわち電子の「スピン」をスイッチングできれば、高速・低消費電力のデータ記憶装置や「スピントロニクス」への応用が飛躍的に進むと期待されている。しかし、ほとんどの磁性体は金属か絶縁体であり、室温で使用できる磁性半導体材料を得ることは困難であった。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者らは東京大学の研究者らと共同で、磁性半導体の強磁性を室温で電気的に制御することに成功し、新たな電子デバイス実現への可能性を見出した1

研究チームが用いたのは、半導体である二酸化チタンに磁性元素のコバルトを少量添加した材料である。この材料が室温で強磁性体になることは、すでに同チームの一部のメンバーらによって発見されていた。「私たちは今回、コバルト添加二酸化チタンが強磁性半導体であるだけでなく、強磁性のスイッチングが可能なトランジスターとしても使用できることをはっきりと実証しました」と、研究チームの川崎雅司連携教授は言う。

研究者らは、この材料に含まれる電子の密度を電気的に調節することによって、磁性の制御を実現した。材料に電荷を蓄積させることにより強磁性を生じさせ、電荷を減らすことにより、その磁化をオフにしたという(図1)。以前の研究では、この材料に十分な電荷を注入してスイッチングを引き起こそうとしたが、必要な電圧が高すぎてサンプルが壊れてしまった。

以前の研究では電荷濃度を高めるために固体コンデンサーを用いたが、今回は、最近開発された液体電解質を用いる手法を使って材料に電荷を送り込んだ。液体電解質は大量の電荷を運ぶことができるため、電気自動車のスーパーキャパシターなどで電気エネルギーを貯蔵するのに利用されている。今回は、液体電解質を用いたことで、わずか数ボルトの電圧を加えるだけでコバルト添加二酸化チタンの磁性のオン・オフをスイッチングできた。

室温で磁性のスイッチングができる磁性半導体が開発されたことにより、電子の電荷だけでなくスピンも利用できる高性能デバイスの実現が現実味を帯びてきた。液体電解質の使用には実用面で制限があり、たとえば、コンピューターチップへの集積化は容易ではない。しかし、川崎教授は、そのようなハードルは乗り越えられると確信している。「2つの可能性があります。1つは、より実用的なスイッチング法を探索することであり、もう1つは液体に適した用途を探すことです。重要なのは、スイッチングが実現できるとわかったことなのです」。

References

  1. Yamada, Y., Ueno, K., Fukumura, T., Yuan, H. T., Shimotani, H., Iwasa, Y., Gu, L., Tsukimoto, S., Ikuhara, Y. & Kawasaki, M. Electrically induced ferromagnetism at room temperature in cobalt-doped titanium dioxide. Science 332, 1065-1067 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。

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