薄膜: 電子状態の環

2011年04月25日

鉛薄膜の電子特性に関する最新の知見が得られたことにより、この材料の新たなエレクトロニクス応用の可能性が示唆された

図1: 鉛薄膜の電子構造。鉛薄膜中の電子のエネルギー状態が、運動量とエネルギーの関数としてプロットされている。これらの電子状態の形状は、量子効果によって決まってくる。特に、最上部の環状の部分は、観測される多くの特性の原因となっている。
図1: 鉛薄膜の電子構造。鉛薄膜中の電子のエネルギー状態が、運動量とエネルギーの関数としてプロットされている。これらの電子状態の形状は、量子効果によって決まってくる。特に、最上部の環状の部分は、観測される多くの特性の原因となっている。

 

材料を加工して薄膜にすることは、電子回路や太陽電池、レーザーデバイスを作製するうえで重要な意味をもつ。薄膜はわずか数原子層の厚さしかないこともめずらしくなく、量子効果が顕著に現れるため、厚膜とは異なる高い性能をもたせることができるからだ。このたび、東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の研究者は、清華大学(北京、中国)および中国科学院物理研究所 (北京)の研究者らとともに、こうした量子効果が超伝導材料である鉛系薄膜の特性に影響を及ぼすしくみを明らかにした1。今回の研究成果は、金属薄膜の新しいエレクトロニクス応用につながる可能性がある。

金属薄膜のなかでも、鉛の薄膜は興味深い特性をもっている。その特性の多くは膜厚の変化に非常に敏感で、わずか1原子層の違いで変わってくるほどである。研究チームの相馬清吾助教は、「この性質は、金属の電子状態が長距離にわたってコヒーレントに広がることに起因する量子効果によってもたらされると考えられます」と言う。「たいていの金属は、膜厚が5nm未満という極端な薄さにならなければ量子サイズ効果を示しません。これに対して、鉛薄膜では電子波長が1nmと長いため、20nmを超える膜厚でも顕著なサイズ効果を示すのです」。

鉛薄膜の量子特性の起源を探るため、研究者らはシリコン上に鉛薄膜を成長させた。そして、表面走査トンネル分光と角度分解光電子分光という2つの評価手法を組み合わせて、鉛薄膜の膜厚と観測される電子特性との相関関係を調べた。電子の運動エネルギーを運動量の関数として図示したところ、閉じ込め効果により、電子状態がM字型になることがわかった(図1)。この形状は、23原子層からなる薄膜と24原子層からなる薄膜とでは大きく変化した。特に興味深いのは、非常に多くの電子状態が集中する最上部に環状構造が形成されることである。この環のエネルギー位置は膜厚に依存しているため、薄膜の電子特性が膜厚の増加とともに振動をする現象を生み出している。

今回の電子構造の理解の進展にもとづき、これらの薄膜の超伝導特性をさまざまな形状の系(量子ドットやワイヤー、ストライプなど)と併せて調べることが次の課題となる。「このような低次元系の電子構造を理解することが、先進的電子デバイス開発の中核となるのです」と相馬助教は話す。

References

  1. Sun, Y. J., Souma, S., Li, W. J., Sato, T., Zhu, X. G., Wang, G., Chen, X., Ma, X. C., Xue, Q. K., Jia, J. F., Takahashi, T. & Sakurai, T. Van Hove singularities as a result of quantum confinement: The origin of intriguing physical properties in Pb thin films. Nano Research 3, 800–806 (2010). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。