金属: 金属ガラスにも秩序がある

2011年02月28日

数オングストロームの幅の細い電子ビームを用いて得た回折パターンから、金属ガラスの局所的秩序が明らかになった

図1: 金属ガラスZr66.7Ni33.3についての典型的なナノビーム電子線回折パターン。スポットAまでの距離を用いて短距離原子秩序をモデル化できる。
図1: 金属ガラスZr66.7 Ni33.3 についての典型的なナノビーム電子線回折パターン。スポットAまでの距離を用いて短距離原子秩序をモデル化できる。

参考文献1(© 2010 M.W. Chen)より

多くの金属では原子が整列して周期的な結晶パターンを形成しているのに対し、金属ガラスの原子は長距離秩序をもたない。金属ガラスが耐摩耗性、耐腐食性、高強度などの望ましい特性を備えている理由はそこにある。したがって、金属ガラスの原子構造を詳細に解明できれば、金属ガラスのさらなる改良に大いに役立つと考えられる。

金属ガラスの原子モデルにはさまざまなパターンがあるが、実験的に確認されたものはひとつもない。金属ガラスの構造評価実験では、比較的広い体積に関する平均的なデータしか得られないからである。しかし、東北大学の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)および金属材料研究所はこのたび、大阪大学、グルノーブル工科大学(フランス)との共同研究において、「ナノビーム」電子線回折と分子動力学シミュレーションを組み合わせることにより、金属ガラスの原子構造の特性を、これまでになく高い分解能で明らかにすることに成功した1

研究者らはまず、標準的な電子線回折法と電子顕微鏡法を用いて、金属ガラスZr66.7Ni33.3の構造評価をおこなった。予想通り、回折スポットは観測されず、規則的な原子秩序が存在しないことが示された。また、電子顕微鏡法でも明瞭な秩序は検出されなかった。Mingwei Chen(陳明偉)教授、平田秋彦助教および共同研究者らは、この結果に満足せず、電子ビームの幅を細くして、より微細な原子構造を解像する取り組みに着手した。そして、電子光学系の球面収差を補正し、特別に設計した電子ビームコンデンサー絞りを用いることにより、電子ビーム径を約3オングストローム(Å)、つまり0.3ナノメートルまで小さくして、これまで実証されたなかで最も細いコヒーレント電子ビームを得た。

ビームが格段に細くなったことで、単結晶から得られるものと同様の、はっきりした回折スポットが得られた(図1)。これにより、「金属ガラスは大きいスケールで見ると無秩序だが、秩序ある小さい原子クラスターが基本構造単位になっている」という予測が正しいことが確認された。研究チームは、原子構造を壊さないよう低出力ビームを用いて細いビームでサンプル上を走査し、約4~7 Åの大きさの秩序クラスターを数百個サンプリングした。データから、秩序原子クラスター内の平均原子面間隔は2.4 Åであることが明らかになった。また、分子動力学法で得られたモデルは、実験により測定された回折パターンの主な特徴を再現し、局所秩序が実際に観測されたことを裏づけた。

陳教授によると、今回の結果は、金属ガラスの基礎研究と応用の両方に大きな影響を与える可能性があるという。「私たちは今や、信頼性の高い原子構造モデルを提示できるようになりました。このモデルを利用して新しい金属ガラスを設計すれば、形成能を向上させることができるほか、ガラス転移や変形などの重要な物理過程の理解を深めることにもつながります」と同教授は話す。

References

  1. Hirata, A., Guan, P., Fujita, T., Hirotsu, Y., Inoue, A., Yavari, A.R., Sakurai, T. & Chen, M.W. Direct observation of local atomic order in a metallic glass. Nature Materials 10, 28–33 (2011). | article

このリサーチハイライトは原著論文の著者の承認を得ており、記事中のすべての実験データは同著者から提供されたものです。